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No.409 日本の旅館文化を守ることの大切さ~旅館は厳しい経営環境に立たされている~

2016年4月25日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光



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 高度成長期からバブル期にかけて旅行は団体が主流で、貸切バスに揺られて名所旧跡を巡り、夜は温泉地の旅館に宿泊して宴会を楽しんだ方が多いのではないでしょうか。
 好景気に後押しされて、新しい施設のオープンや増改築が目立ち、宿泊者の増加は地域経済にとって大きな支えとなりました。



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 しかし、その後低成長時代が続き団体旅行も激減し、また国民の生活スタイルが洋風化して個室化が進み、日本の伝統文化を守ってきた日本旅館を利用する人が減少しています。
 現在日本旅館協会(2013年に国際観光旅館連盟と日本観光旅館連盟が合併)に加盟している施設数は、2015年で2991軒です。合併前の2012年には3855軒ありましたが、3年間で864軒も減少しています。
 大きな要因として、国民の旅行スタイルの変化に加え、宿泊者の減少や後継者不足による廃業、他の利用施設への転換、倒産などがあげられます。


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 全国の主要ホテルの2016年の平均客室利用率は、インバウンドが好調なこともあり79.2%の高利用率を確保しています。一方旅館は3名~5名の定員の部屋に、2名もしくは1名入っており、主要旅館の定員稼働率は36.0%であり、厳しい経営を強いられています。旅行形態は団体から個人旅行に変化しており、ホテルやビジネスホテルは、シングル、ツインと分けられそれぞれの料金体系が明確になっていますが、旅館は部屋の構造上、宿泊者数に合わせた料金体系を明確にすることが難しく、適正な料金の収受ができていないのが実情ではないでしょうか。
 旅館経営の厳しさがここにあります。ホテルに比べて人手がいるのは旅館です。それなりの料金を取らないと、なお一層経営は厳しいものとなります。


 また、ここにきて、旅館経営が厳しくなっている要因として、1995年に策定・施工された「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が、大型施設の維持管理に大きな負担を強いていることです。2013年に二度目の改正が行われ、不特定多数の人が利用する建物のうち大規模なものについては耐震診断を行い報告することを義務付け、その結果が公表されることになりました。


 耐震診断が義務付けられるホテル・旅館は、1981年5月31日以前に新築工事に着手した建物で、階数3以上かつ床面積5,000平方メートル以上で、防災拠点建築物や避難路沿線建築物として指定された施設が対象です。


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 診断結果を報告することを義務づけていますが、耐震改修については努力義務とされています。診断の結果は行政がホームページで公表し、改修工事をした施設には日本建築防災協会が適合マークを交付することとなっています。
 修学旅行の受入に当たっては、学校からの入札の仕様書に「適合マーク取得の施設」と条件が加えられると、選定に有利に働くことから大きな武器ともなります。


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 一方では、適合マークのある施設が少ないことは、修学旅行を誘致する際地域全体での誘客が制限されることになり、地域への影響は大です。
 このたびの、熊本、大分両県で発生した大地震で、宿泊施設も大きな被害を受けました。耐震改修への義務化が強化されるのではと懸念されます。公的支援や一定期間の猶予等政治的決断が求められます。


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 旅館は夕方のチェクインから翌朝の出発まで、安全管理が求められます。また、夕食、寝具の準備、部屋の夜回り、朝食の準備などを考慮すると、一定の従業員の確保は不可欠です。しかし宿泊者は季節変動があり、オフ時期を考えると常用雇用の人員にも限度があるのも事実です。従業員が少ない中での営業力確保も大きな課題です。
 労働環境も夜が遅くて朝も早く、人が休んでいる間に仕事があることから、若者が集まりにくい状況もあります。待遇改善も大きな課題です。


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 消費者の皆様も旅館の現状を理解して、日本の伝統文化を守るべく、適正な価格維持にご理解をお願いしたいと思います。
 特にエージェントの皆様には価格設定にご配慮いただき、ウインウインの関係を構築していただきたいと願っています。旅館の応援者になることが自らの企業を維持発展させることになるのではないでしょうか。


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 外国人観光客が急増しており、その受け入れ態勢の充実には旅館文化も欠かせません。日本旅館は、湯茶の接待、大浴場、浴衣、料理によって違う皿、部屋に飾られる花、清潔な布団など日本独特の文化を提供しています。外国人にとっては一度にさまざまな日本文化に触れることができることから、和室旅館に宿泊することを好みます。
 大都市圏に集中している外国人を鹿児島に呼ぶためには、鹿児島ならではの体験メニューや食、おもてなしの心、温泉等旅館の素晴らしさを提供したいものです。


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 昔の文人墨客たちは、日本各地を旅行しながら旅館に滞在し、多くの作品を発表しました。尾崎紅葉、島崎藤村、夏目漱石、若山牧水、川端康成、横光利一、太宰治、林芙美子、与謝野鉄幹、井上靖、有吉佐和子らです。


 文豪志賀直哉は兵庫県にある城崎温泉にある「三木屋」という旅館を定宿としてこよなく愛し、そこで名作『城の崎にて』を生み出しました。
施設は木造3階建ての建物と300坪の庭園があり、古風な雰囲気の中にも風格を感じさせる創業260有余年の老舗旅館です。


 その三木屋という旅館を舞台に、今も変わらない城崎温泉の外湯めぐりの様子も描かれているのが次の有名な小説です。旅館の雰囲気と城崎温泉の情緒が絡み合い懐かしい光景が浮かんできます。日本の原風景には、旅館が似合います。



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 「城崎では彼は三木屋というのに宿った。俥で見て来た町のいかにも温泉場らしい情緒が彼を楽しませた。高瀬川のような浅い流れが町のまん中を貫いている。その両側に細い千本格子のはまった、2階3階の湯宿が軒を並べ、ながめはむしろ曲輪の趣に近かった。
 また、温泉場としては珍しく清潔な感じも彼を喜ばした。一の湯というあたりから細い道をはいって行くと、桑木細工、麦藁細工、出石焼き、そういう店が続いた。ことに麦藁を開いてはった細工物が明るい電燈の下に美しく見えた。
 宿へ着くと彼はまず湯だった。すぐ前の御所の湯というのに行く。大理石で囲った湯槽の中は立って彼の乳まであった。強い湯の香に、彼は気分の和らぐのを覚えた。
 出て、彼はすぐに浴衣が着られなかった。ふいてもふいても汗がからだを伝わって流れた。彼は扇風機の前でしばらく吹かれていた。そばのテーブルに山陰案内という小さな本があったので、彼はそれを見ながら汗のひくのを待った。・・・・・・・・・・・・・・」                     小説『暗夜行路』 志賀直哉著より

*休日が続くため、次回は5月9日に配信します。楽しい連休をお過ごしください。

No.408 最近の観光マーケットから~ゴールデンウイークは地元にめを向けよう~


熊本、大分 両県で発生した地震により、大きな被害を受けた地域・皆様に
心より御見舞を申し上げますとともに、一日も早い復旧をお祈り致します。


2016年4月18日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光



 先日まで賑わいを見せていた桜の名所は、嵐が去ったかの如く静かとなりましたが、新緑に覆われた木々は一段と鮮やかに感じられます。


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 今日本で一番人気の観光特急列車「ななつ星in九州」は、「肥薩おれんじ鉄道」を通るコースに運行がかわり、沿線の駅では思い思いの歓迎風景が見られました。これから毎週木曜日、鹿児島中央駅から串木野、川内、薩摩高城、阿久根、出水と北上していきます。薩摩高城駅では、東シナ海に沈む夕日を見て近くの海岸を散策してもらうために、30分間停車します。列車の豪華さとともに各駅でのおもてなしが注目されます。新しい観光の始まりです。


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 茶どころ鹿児島では間もなく新茶の季節となり、茶畑にあかねたすきに菅の笠をかぶった女性の姿も見られるようになります。南九州市の頴娃地域では、お茶摘み体験や茶を使った創作料理が楽しめるグリーンティーリズムが人気となっています。地域資源を活用し、都会では体験できない新しい取り組みが、来訪者に感動をもたらしていると感じます。


 ところで、鹿児島県の宿泊客数は、新幹線全線開業の平成23年からこの5年間毎年伸びていますが、鹿児島市内、霧島、指宿地域で、全体の65%を占めています。これらの地域から県内各地にいかに広げるかが重要であり、地域資源を掘り起こし磨き上げ商品化し、プロモートして誘客に結びつける取組が大きな課題です。従来の待ちの姿勢では顧客は離れていくばかりで、積極的な販促活動が重要となっています。


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 時間短縮効果や「鹿児島中央駅」が南の終着駅となっていることから、新幹線利用客は安定しており、その客を誘導すべく各自治体も交流人口を増やす取組に力を入れています。
 伝統食、直売所、古民家、古刹、世界遺産、ローカル鉄道など地域資源を活用した旅行商品化も進められています。
 昨年発生した口永良部新岳の噴火や一時的な桜島の噴火警戒レベル引き上げ等の影響は、まだ残っていますが、風評被害を一掃すべくPRや販促活動に力をそそがねばなりません。
 インバウンドは引き続き好調ですが、株価低迷等もあり国内景気は不透明感が漂っています。


 さらに今年は地震や参議院選挙やリオオリンピックがあり、国内旅行は停滞することが予想されます。一方北海道新幹線開業は、誘客にとってマイナスではなく北の大地に新幹線が到達したことを受け、プラス要素として捉えることが大切です。夏休みには日本列島を縦断する若者の利用が増えるのではないでしょうか。
 新幹線はこれから6年間新しい開業がない中で、南の終着駅がある鹿児島の魅力をもっと前面に出したPRを行い、常に新しい需要を開拓することも求められます。


 まもなく、ゴールデンウイークがやってきますが、今年は5月2日と6日を休むと10連休となります。この時期の需要はファミリー層が中心で、滞在先で何ができるかが顧客の選択肢の一つになることから、地域の旬な情報発信が求められます。


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 県内の宿泊施設を取材すると、5月1日、2日、5日、6日、8日の5日間は空室がある施設が多くみられます。多くの方がこれから休暇計画を立てるため、休みを取って行きたくなる地域の情報を提供しなければなりません。ファミリーで体験できるメニュー、平日や連泊することでのメリット等を明示することが宿泊者を増やすことになります。申し込みも間近が増えており、宿泊日の滞在メニューにメリハリをつけることも新たな需要を開拓します。(4月11日現在)


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 県民の皆様が地域の魅力を体感し、発信することが一番の誘客対策になります。鹿児島中央駅に新幹線が着くと観光客の目に飛び込んでくるのが、最近頻繁に噴火している桜島です。
 桜島の島民約5000人は、噴火時でも普段の生活を営んでいることを伝えていくことが安心感を与えます。桜島の噴火している美しい景観を、観光客に提供することが感動をもたらします。湯之平展望所からの景観や温泉堀体験、埋没鳥居等の火山の遺跡、寄り道クルーズ等の魅力も一緒に伝えたいものです。


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 昨年7月に「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録され、中でも長崎市の軍艦島はブームとなっています。全国8県11市23の構成資産はシリアルノミネーションであり、そのスタートは鹿児島の「旧集成館事業」です。「世界自然遺産」と「世界文化遺産」という2つの世界遺産を持つ唯一の県であり、県民自らが遺産の価値を理解して語らないと、観光客は増加していかないと思います。多くの県民に文化遺産を見る機会を提供しなければなりません。


 2年後には明治維新150周年を迎えます。明治維新150周年は、薩摩の偉人たちが果たした役割を考えると、鹿児島がその優位性を発揮でき観光も飛躍させるチャンスになります。


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 その2018年に照準を合わせ、鹿児島を題材にした大河ドラマの制作をNHKに働きかけています。朝の連続テレビ小説「あさが来た」では薩摩出身の五代友厚が人気となり、彼の誕生地や銅像は新たな観光地になっています。メディアの発信効果は多くの分野に経済効果ももたらします。
 2008年の大河ドラマ「篤姫」では小松帯刀にスポットが当たりました。大河ドラマは例年6月頃に発表される予定ですが、決定すれば、世界文化遺産の認知度向上、教育旅行の誘致に弾みが付きます。厳しい環境のなかで、次につなげたいという大きな想いがあります。


 一方では、観光PRの手法も多様化しています。パンフレット、広告、大都市圏での説明会、メディアの招聘事業、ホームページ等で鹿児島の魅力を発信してきました。 価値ある情報を拡散させ、ムーブメントをつくるためには、B→Bに加えてB→Cも重要になっています。個人のフェイスブックやブロガー、ツイッター、ユーチューブ、動画など多様な媒体を使ってコアの層への情報発信を強化していかなければいけません。作り手の思いやストーリー性を交えながら生活者が共感を抱く情報発信が求められています。


 また、最近の旅行スタイルは団体旅行から個人旅行にシフトして、滞在先では地元の人がよく行く飲食店や生活文化に触れることを望んでいます。「地理的表示保護制度」も導入され、地域がよりわかりやすい商品提供も求められます。県民の皆様がふるさとの良さに気づくことが重要であり、そのことが自信をもって遠来の客をおもてなしすることに結びつきます。


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 県内でもこれから、「志布志お釈迦祭り」、「2016吹上浜砂の祭典in南さつま」等様々なイベントが開催されます。そこに行けば何が体験できるのか、周辺の食の魅力や宿泊情報など「生活者にとって価値があり得する情報」が必要です。


 今年のゴールデンウイークは、地域の生活文化に触れる旅行の計画を立てませんか。鹿児島の新たな魅力に気付く機会になります。
 観光地では人が動くチャンスを逃さず、長時間滞在していただくメニュー提供や宿泊したくなる取組が必要ではないでしょうか。



             絶 句

    江碧鳥逾白 山青花欲然 今春看又過 何日是帰年


        江碧(みどり)にして 鳥逾(いよいよ)白く

        山青くして 花燃えんと欲す

        今春看(みすみす)又過ぐ

        何れの日か 是れ帰る年ぞ

                  ~杜甫~
※杜甫の代表作で不遇な時代、望郷の念を読んだ詩です。


No.407 名前が表す地域の良さとは~地理的表示保護制度を活かせ~

2016年4月11日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 海外旅行に行くと、各地の免税店で高級なブランド品を買う日本人の姿が良くみられます。旅の楽しみは食とショッピングが大きな要素です。
 ブランド(BRAND)とは、もともとアルプス地方で放牧されている羊などの家畜に押す「焼印」(BURNED)に由来しており、他人の羊と区別するために使われ、現代では他の類似品との違いを明確にするために使われています。生活者が他との比較において優位性を認める記号であり、かつその記号に象徴される世界観であると定義されています。


 ブランドはそれを利用する人たちがその価値を認め、広がりを持つものであり、認証マークやネーミングを作ったからといって、ブランドになるものではありません。また、地域ブランドとは、地域で作られる産品と地域そのものがお互いの相乗効果で優位性を発揮し、他との差別化が図られたものです。


 昨年の6月、農林水産省は風土や伝統が育んだ特色ある地域産品を保護することを目的に「地理的表示保護制度」をスタートさせました。全国的に見ると「○○牛」や「○○みかん」、「○○鶏」等は現在でも、地理的にわかり易い名前がついています。
今回の制度の目指すメリットは
 ① 地域ブランド産品として差別が図られて価格に反映することができます。地域ブランドの保護・活用により交流人口を増やし、農山漁村・地域の活性化につながります。
 ② 不正使用に対して行政が取締りを行うこととなっており、生産者にとっては、訴訟などの負担がなく、自分たちのブランド保護が可能となります。
 ③ 品質が守られることから、その産品のみが市場に流通することから、消費者の利益の保護にもなります。
 ④ 真の日本の特産品として海外展開に寄与できることから、農林水産物・食品の輸出促進にもつながります。
 等があげられます。


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 登録された産品には「GⅠマーク」がつけられ、産品の確立した特性と地域の結び付きが見られる真正な地理的表示産品で証となるものです。「GⅠマーク」は日本の地理的表示保護制度のものであることをわかりやすくするため、大きな日輪を背負った富士山と、水面をモチーフに日本国旗の日輪の色である赤や伝統・格式を感じる金色を使用し、日本らしさを表現しています。


 現在12の地理的表示産品が登録されています。
 皆様がよく知っている産品では、神戸ビーフ、夕張メロン、八女伝統本玉露、くまもと県産い草、三輪素麺、鹿児島の壺造り黒酢などです。
(2016年3月31日現在)


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 登録された「鹿児島の壺造り黒酢」は、健康食品として多くの製品に使われており、鹿児島県福山産として、桜島を背景に壺畑や生産者の顔がメディアで紹介されます。
 観光ルートにも入っていますが、多くの観光客に来訪してもらい黒酢を使った料理や江戸時代から続く作り手の想いを聴いていただきたい。そのことが持続的な販売拡大につながります。保護制度登録の優位性を活かすことが重要です。


 鹿児島においても、農水産物の登録品目を増やし、地域の活性化に繋げる取組が必要です。選ばれる地域・商品になるためには、地域でつくられる産品が、他にない独自性や優位性、品質保証、希少価値を発信しなければなりません。


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 また、生活・文化が凝縮された産品として価値を高めることで、生活者の心を捉え買いたくなるものになります。
 農業産出額第4位の優位性を活かし、鹿児島茶、六白の黒豚、桜島大根、種子島の安納いも等に加え、枕崎や山川のかつおの本枯れ節などが地理的表示を明確にできるものではないでしょうか。地域イメージを活かし誘客につなげる取組が求められます。


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 一方では、地域内でどのように流通させるかも課題であり、足元も固める必要があります。空港や駅の売店、ホテル、飲食店など多様な店舗での流通を図らねばなりません。コアの層にも価値ある情報を届けるWEBでの展開も欠かせません。情報を拡散させ、ムーブメントを起こし、生活者自らを動かすことが重要です。


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 また、今消費を引っ張っているのは女性です。「美」、「食」、「健康」「本物」、「痩せる」、「美味しい」などがキーワードです。評価は口コミで伝わり納得すれば消費につながります。
 作り手の生産にかける熱い思いを伝えることで共感を呼び、消費を促すことから、商品の物語化が求められます。売り方ではアナログ化された販売手法も買い手の心を動かします。


 一方で、人口減少や高齢化が顕著となり、家族構成は一人や夫婦だけの世帯が日本全体の60%を超え、消費のサイズは小さくなっています。かつて外国の産品に農薬が混入し、日本でも食の偽装があり、生活者は食の安全面には特に敏感になっています。


 一度に大量の買物より、少量で品質の良いものを買う傾向が強くなっています。何度も買ってもらうためには、商品の小分けや生産地、ストーリーを語るなど販売側の努力も必要になっています。


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 今回の地理的表示保護制度のコンセプトを活かすには、地域色をいかに出せるか、いかに安全・安心の良い商品を提供できるかです。農山漁村の活性化に結び付けるべく顔の見える表示を明確にしたいものです。



      汽車の窓 はるかに北に ふるさとの
           山見え来れば 襟を正すも
                    ~石川啄木~

※参考:農林水産省ホームページ:地理的表示保護制度
   

No.406 鹿児島版DMOの定着にむけて~地域づくりの中心に成りうるか~

2016年4月4日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 先週末は花見や夜桜見物で、楽しい時を過ごされた方が多かったのではないでしょうか。満開の桜も散り始め今週末には葉桜となりそうです。
 職場では新しい部署の歓迎会も終わり、本格的に新年度のスタートです。日本では年度初めに人の異動等もあることから送別会や歓迎会が開かれており、あらたな気持ちで業務をスタートできるのではないでしょうか。
 熱い思いをもって社会人になった若者も迎えました。先輩の皆様方の温かいご指導をお願いしたい。

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 鹿児島県の28年度予算では観光関係の予算が大幅に増額され、農業とともに基幹産業としての役割が益々期待されています。
 観光庁では、観光地域づくりの舵取り役を担う新しい法人が設立されることを期待しています。それは、「観光地経営」の視点にたって観光地域づくりを行う組織・機能「DMO」(Destination Marketing / Management Organization)です。

 「日本版DMO」には、マーケティングに基づく観光戦略の策定・推進や、地域内の団体や住民等の幅広い合意形成など、観光事業のトータル的なマネージメントを担う役割が求められています。登録候補法人は、広域連携DMO2件、地域連携DMO11件、地域DMO11件の24件が予定されています。(平成28年2月28日現在)

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 エリアでの観光地経営が求められる背景には、現在の旅行スタイルの変化があげられます。高度経済成長期からバブル全盛期頃までは団体旅行が主流であり、大都市圏での営業力を活かし旅行エージェントが多くの客を集客し送客してくれました。観光地や温泉地では慰安旅行や招待旅行客であふれ、連日多くのお客で昼夜賑わいを見せていました。発地型観光の典型的な姿であり、地域や観光関連施設は大きな努力を求められることもなく、旅行エージェント頼りで経営が十分成り立っていました。

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 しかしバブル崩壊後団体旅行は減少していき、旅行スタイルは個人旅行へと変化し、ニーズも複雑・多様化して、体験や交流を求める観光客が増加しています。
 エージェントだけの送客に頼るのではなく、地域自らが地域資源を活用した商品化をすすめ、情報発信し集客できる態勢づくりが求められてきています。着地型観光の推進が不可欠になっています。

 一方で、地域は旧来の受入態勢からなかなか脱却できず、着地型観光の推進は一部の地域以外を除いて、十分な成果が上がっていないのが現状です。また、急増している外国人対策も急がれ新しい地域づくりが求められています。

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 そこで、観光立国推進会議は昨年6月「観光立国実現に向けたアクションプログラム2015」を決定し、2020年に向けた訪日外国人の増加を目標に掲げ、その一つに「日本版DMO」の確立をあげています。
 「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」では、「欧米の先進事例も踏まえ、望ましい機能を備えた日本版DMOを早急に育成する」こととされています。
 地域の風土・文化にあった組織をつくりあげることで、地域を活性化させるビジネスモデルの形成を目指すものです。

 今回の候補法人登録予定24件に、県内では「地域DMO」として(株)薩摩川内市観光物産協会があがっています。今後登録を目指す地域もありますが、これから登録にあたっての課題や方向性について整理したいと思います。

 現在、地域で観光業務に携わっている組織には、宿泊観光施設、運輸、商工業、農林水産業、観光協会、旅館組合、NPO法人等がありますが、それぞれが独立している組織であり、会費や自治体の補助金で運営されています。

 地域でのDMOの設立にあたり、各団体で行っている日々の活動を分析し、一つにまとまって地域づくりを行うことについて、多様な関係者の合意形成が重要です。
 地域全体の宿泊・観光施設の現状や観光資源など現在のマーケットを明らかにして、どのような需要があり、年間のいくらの収益が見込まれるのか経営の見通しを予測する必要があります。各種データの収集・分析を行うことで戦略策定も可能となります。マーケティングが次の行動を生み出します。
 設立当初は国の支援金等を受けられますが、組織の維持・発展には経営の黒字化が不可欠です。

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 次に人材の発掘です。新しい組織の設立には中核となる人材の登用が欠かせません。地域資源を磨きあげ新しい着地型商品づくりやプロモーション、ランドオペレーター機能の仕組みづくり、地域を俯瞰しコーディネートできる人材が求められます。特に設立から3年間ぐらいは組織の調整が一番大切であり、運営を軌道に乗せることでその後の展開も可能となります。
 そして地域の運営会社として新たな雇用を生み出すことが重要と考えます。

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 現在、地域の取組として成果をあげているのが、長崎県の小値賀町の「株式会社小値賀観光まちづくり公社」があげられます。都会から移り住んだ劇団出身のTさんが2004年に移住して取り組みを始めて、何もない島に年間宿泊客約1万4000人が訪れるようになりました。民泊受入70軒が生まれ、公社には20人の雇用も生まれています。10年間でIターンの移住者が120名にもなっています。地域資源を活用した滞在メニューが交流人口の拡大につながっています。アメリカの高校生も毎年訪れています。
 1人のリーダーが島民の意識改革と合意形成を取り付け、島の魅力を磨き、価値ある島へと変革させたのです。観光協会・自然学校・民泊組織を1つにまとめて予約を1本化したことが大きいと感じます。

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 これから県内でDMOを設立するには、離島が一番取り組み易いのではと感じます。入込客は、船や飛行機に限定されており、入口で観光客を把握しやすくワンストップで予約ができる仕組みづくりが可能になるからです。

 候補地としては、屋久島、甑島、与論島、奄美大島などが取り組みやすいと思います。屋久島を例に取ると、「世界自然遺産登録地」という価値が一定の入込客を呼び込みます。

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 登山ガイド、宿泊、レンタカー等の手配、オプショナルツアーの企画販売、来年から始まる入山協力金の徴収受託、特産品の販売など総合的にプロデュースすることで、一定の収益や雇用の確保も見込まれます。
 他の島も魅力ある観光資源があり、体験メニューの商品化もすでに進んでいます。
 またグリーンツーリズムに特化している地域は、教育旅行をすでに受け入れていることから、他の地域資源と組み合わせることで、組織の拡大が図られると感じます。

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 いずれにしても、持続できる組織であり続けるためには、十分なマーケティングと人材の育成、戦略的な組織運営が鍵となります。単なる組織統合と費用削減の観点だけでは、展望は開けないと感じます。
 DMOの登録はスタートしたばかりです。十分な議論を重ね将来的には、補助金なしで運営できる会社に育てる長期的な戦略が求められます。(株)薩摩川内市観光物産協会に続く「鹿児島版DMO」が登録されることを期待します。

    親馬の 道をいそげば きりにぬれて
             子馬も走る いななきながら
                        ~橋田東声~


 ※参考:観光庁「日本版DMO」とは

No.405 旅人は花の魅力に誘われる~フラワーツーリズムの推進~

2016年3月28日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光



        宿りして 春の山辺に 寝たる夜は
                夢のうちにも 花ぞ散りける
                      紀貫之~古今和歌集~


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 桜の開花宣言が続き、鹿児島は今週末が見ごろとなります。北国ではいまだ降雪があり、厳しい寒さが続いているところもあります。日本の中でこれほど気象の差があるのかと感じます。
 桜前線は例年、5月上旬に北海道に上陸し、松前城や五稜郭公園の桜が話題となります。


 桜は奈良、平安の時代から多くの短歌や随筆、物語集、日記等の中で取り上げられています。源氏物語、万葉集、土佐日記、古今和歌集、新古今和歌集、徒然草などがあります。

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 江戸時代には、松尾芭蕉、与謝蕪村、小林一茶の俳句に多く詠まれています。また明治以降文人墨客にも愛され多くの文学作品に描かれ、映画やテレビドラマでは欠かせない情景となっています。


 アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.のポトマック河畔の桜並木は、世界の名所の一つに数えられます。ここの桜は、明治45年(1912年)当時の東京市長であった尾崎行雄氏が贈ったもので、毎年3月末から4月のはじめにかけて、盛大な「桜まつり」が開催され、多くの人が訪れます。在米の日本人は特に楽しみにしているイベントです。是非一度お訪ねください。


 日本は四季がはっきりしており、そのことが美しい国土を創り出し、桜の魅力もその恩恵を受けていると感じます。桜の開花予想についてはソメイヨシノの木が対象となっており、全国54地点(沖縄・沖縄地方をのぞく)の開花日を発表しています。気象庁の発表では、今年の鹿児島での開花予想日は29日となっています。


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 全国に桜の名所は数多くあり、日本の「三大桜」と言えば、福島県の三春滝桜、山梨県の山高神代桜、岐阜県の根尾薄墨桜です。桜の木の大きさや形、花の咲いている姿が特に印象に残ります。
 他にも北海道の松前城や五稜郭公園、東北の弘前城公園、角館、東京の新宿御苑や上野公園、長野県の高遠城址公園が有名です。西日本では豊臣秀吉が最晩年に1300人の招待者を集めた醍醐寺、岡崎公園、吉野山、大阪造幣局、福岡舞鶴公園、熊本城、一心行の大桜、都城市の母智ヶ岡公園などが有名です。


 弘前城公園には約2600本の桜がありますが、特にお堀端の枝垂れ桜が有名で、水辺に映える夜桜見学がおすすめです。毎年4月下旬から5月上旬に開かれる「弘前さくらまつり」は、200万人を超える観光客が訪れ、必見の価値があります。
翌日は「津軽鉄道」に乗り、金木町の太宰治の生家である「斜陽館」や、鹿児島出身の彫刻家中村晋也氏製作の「太宰治銅像」や文学碑がある芦野公園を訪ねる旅はいかがですか。


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 戦時中は、桜は戦争に行く兵士の激励や戦争で亡くなった人々の弔いの花として崇められていました。軍歌にも歌われています。
 これほど桜が慕われるのは色鮮やかさと木全体の彩り、開花から散るまでの期間が短く、ぱっと咲いてぱっと散る清らかさが日本人の心を捉えるのでしょう。
 また桜の開花は、入学式や社会人のスタートの時期と重なり、思い出に残る花として一緒に写真に納まる光景が見られます。


 県内でも桜の花を背景に見る仙巌園からの桜島、石垣から垂れ下がる桜並木を牛車や着物姿で巡る出水の武家屋敷、特攻隊員の想いに心をはせながら歩く知覧特攻記念館前の桜並木、伊佐市の忠元公園や曾木の滝公園など、県内の名所を訪ねませんか。


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 数年後に鶴丸城の御楼門が復元されます。お堀端の桜は石垣とともに風情を醸し出し風格を感じます。完成の暁には、ライトアップして夜まで開放することで、鹿児島の桜の名所の一つとして話題になるのではないでしょうか。そのことが中心市街地への回遊性をもたらします。


 桜の名所の開花日は、旅行商品の企画には重要なポイントとなります。桜は開花から満開、葉桜へと長くて2週間程度で推移するため、予測が難しく短期間での販売を余儀なくされます。
 特に開花日は雨や気温の差で早まったり遅くなったりで、商品を造成する側にとっては天気が気がかりとなります。京都の桜見学ツアーは特に人気があり、首都圏から京都へは、新幹線貸切列車による商品が多く販売されます。


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 ところで、これからの季節は皆様の地域でも、桜以外に、芝桜、藤、つつじ、ジャカランダ、あやめ、アジサイ等次々に様々な花が咲きます。その美しい姿を観光資源として捉え、食、歴史遺産、直売店、イベント等を組入れて、地域全体の魅力付けをして商品化することが重要です。商品化したものはエージェント等の企画に反映させる努力も必要です。


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 魅力付けには、花のストーリーを語ることが重要です。100年前の卒業記念に植えた木に咲く花、友好の証として他の地域から送られた小さな苗を育てて、毎年多くの花を咲かせている藤の木、夫婦で苦労しながら育て、家の周辺一帯が芝桜に包まれた光景等、そこに至るストーリーがお客様の共感を呼びます。
 ホームページやフェイスブック等での情報発信や、メディアが取り上げたくなる話題作りが欠かせません。前広に地域の人を絡めた情報発信が大切です。


 県内をドライブしていると、あちこちの山に白やピンクの花をつけた山桜を見ることができます。人が植えたわけでもなく、肥料も与えていないのにこの時期になると決まったように美しい花を咲かせます。自然の移ろいは素晴らしい景観を創り出します。


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 道路沿いに花を植栽して四季折々の魅力づくりを進めている長島町は、フラワーツーリズムを推進しており、多くの来訪者を創出しています。町民の積極的参加も地域づくりの参考になります。花の魅力は人を動かし、旅人の心を癒してくれます。


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 自然に咲き誇る花や植栽した公園の多種の草花、それに伝統の食等を加えて地域全体の魅力をもっとPRし、交流人口の拡大に活かしたいものです。




      春霞 たなびく山の 桜花
           見れども飽かぬ 君にもあるかな
                      紀友則~古今和歌集~

プロフィール

奈良迫プロデューサー
鹿児島県
観光プロデューサー
奈良迫 英光
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