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No.412 イベントの設定日に配慮を~経済波及効果を考える~

2016年5月23日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

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 雨に洗われた山々の緑が、一段と美しく感じられる時期となりました。先日まで青空に元気よく泳いでいたこいのぼりの姿が消え、垣根ではアジサイの花の蕾が雨を待ちこがれています。
 例年は、毎日鹿児島中央駅で関西からの中学校の修学旅行を出迎えますが、今年はその機会がほとんどありません。熊本地震の影響で、行先変更や延期等でキャンセルになっている学校が多いことがあげられます。

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 余震が落ち着いたら、また、鹿児島へ戻っていただくように関係機関への営業強化や情報提供の必要性が求められます。なんといっても修学旅行は、学校のもっとも大きな行事であり、一度に多くの学生が動くことから数年がかりの準備となります。
 受け入れ施設では3年前から予約が入り、一般団体と比較して人員減や取り消しが少なく、経営的にもありがたい顧客であるだけに、今回の地震は大きなショックです。
 今回の地震の影響は、九州全域に及んでおり、国を挙げての支援が必要です。

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 県内はこれから梅雨に入り、宿泊施設ではお客様が一番少ない時期に入ります。かつて鹿児島では、田植えが終わると、農家の人々は近隣の温泉地に出かけて疲れをいやす旅行が盛んで、温泉地は賑わっていました。
 しかし、農家も「ハウス栽培」や年間を通じて収穫される野菜等が増え、農閑期が少なくなっています。温泉地では農閑期の人たちを待つ姿勢から、新しい顧客の開拓が必要になっています。
 食やスイーツに工夫を加えて、滞在時間の延長や周辺の魅力を盛り込んだ企画を作り、近隣の職場や老人クラブ、女性グループ団体、同窓会組織など比較的動きやすい組織への提案も必要ではないでしょうか。従業員の多い宿泊施設では、社員の家族割引などの施策を提供することで、新たな顧客紹介にも繋げてほしい。

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 梅雨が明けると、最大の需要時期である夏休みがやってきます。夏休みは、家族の帰省、お盆、伝統行事、花火大会等が開催されることから宿泊者が一番見込める期間です。
 夏の観光の目玉と言えば花火大会であり、日本三大花火大会は、「秋田県大曲全国花火競技大会」、「茨城県土浦全国花火競技大会」、「新潟県長岡まつり大花火大会」で、首都圏などから多くの観光客を集めます。県内の花火大会は、7月から8月の後半の夏休みに集中しています。全国的に見ると9月、10月、11月、12月のオフ時期に開催しているところもあります。
 花火大会にあわせて近隣の観光地を巡る人が増えています。しかし、花火大会は日程が集中するため数カ所の大会しか見ることができないのが現状です。

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 宿泊施設を多く抱える観光地では、花火大会の開催日が他の行事と重ならないよう配慮いただければ、宿泊客が分散され助かります。
 お盆の近くに設定すると、帰省客とお盆休暇等でファミリー層が増え予約で満員になっているので、花火大会目当ての観光客を泊めることができず、地域にとっても大きな損失です。例年、お盆時期について宿泊施設は集客に苦労しません。むしろそのあとの週末の集客に苦労しています。

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 大会を移動させることは、お盆時期に続いて、花火大会見学目的の顧客を開拓でき、新たな経済効果が見込めます。
 宿泊者が見込める時期を外して、開催日を決定する勇気も必要です。夏はインターハイや中学校体育大会、海のイベント、伝統行事と比較的早めに日程が決まります。
今年の開催日の変更は厳しいと捉えていますが、来年以降についてはイベントの開催等を調査して、日程の再考も必要ではないでしょうか。

 一方、花火大会やマラソン大会等は公的空間を利用し、公共交通機関、医療態勢等に大きな影響があることから各機関との十分な調整も必要です。
 各機関の意見を調整し市民生活に重大な支障がなければ、期日の設定は弾力的に考えていただきたい。特に今年は震災が発生したこともあり、観光地、宿泊施設、飲食店、農水産業者等多くの分野に影響が出ています。
 被害を少しでも取り戻すべく、今年は魅力的なイベントの創出も考慮しなければなりません。

 熊本地震から40日が過ぎ、被災地も復興に向けて動きだし、熊本の人気キャラクター「くまもん」も活動を再開しました。観光にも灯りが見え始めています。
 県内への観光客が激減し大きな打撃を受けたのも事実ですが、幸いにも施設への被害はありません。鹿児島の元気な姿を伝えていくことも、熊本を勇気づけます。
 県内各地の花火大会では、夜空に咲く夢と希望を与える大輪のお花畑を提供し、観光客を喜ばせたいものです。

 最後に規制概念に囚われず弾力的な考え方で取り組むことが、今後の地域活性化には必要ではないでしょうか。

        紫陽花や  はなだにかはる  きのふけふ
                         ~正岡子規~

No.411 現状を正しく伝えることが第一~熊本支援に皆様の協力を~

2016年5月16日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

        人間に与える詩    ~山村暮鳥~

   そこに太い根がある   これをわすれているからいけないのだ
   腕のような枝をひき裂き 葉っぱをふきちらし
   がんじょうなみきをへし曲げるような大風のときですら
   まっ黒な地べたの下で
   ぐっとふんばっている根があると思えばなんでもないのだ
   それでいいのだ そこにこの壮麗がある
   樹木をみろ 大木をみろ
   このどっしりとしたところはどうだ
                   『風は草木にささやいた』より

  「熊本地震」から1ヶ月が過ぎ、新幹線や九州自動車道が復旧して、関西や北部九州からの観光客も少しは戻りつつあります。しかし今回の地震により、九州各県の宿泊施設の予約取り消しは約52万泊にもなり、観光業界のみならず地域経済に大きな影響を与えています。県内では105,035泊のキャンセルが発生しています。 (調査対象は県内の157施設:4月14日以降から5月11日までの報告分)

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 修学旅行への影響も大きく、余震が続いていることや関西からの新幹線集約列車が運行できないこともあり、延期もしくはキャンセルになっていることなどがあげられます。修学旅行は行先が1回変わるとふたたび戻ってくるのに数年かかることもあります。
 対策としては、まず大阪にある「日修協」や「全修協」を訪問することが重要です。両協会は関西地域の校長会と連携して、各学校の行先の調査、修学旅行の輸送計画、日程調整など担当していることから、「かごしま」が通常と変わらない状況を伝えて、引き続き鹿児島を旅行先として選択していただくよう要請を行わねばなりません。

 先日観光関係者が集まった会議の中で、地元エージェントの皆様から、県内の学校も行先として中九州や北部九州が多いことから、変更を余儀なくされているという実情も寄せられており、早急な対策が迫られています。宿泊施設ではゴールデンウイーク以降予約状況が前年同期に比べてかなり下回っています。

 県内で地震による取り消しなどの影響を受けていないのは奄美地域です。やはり消費者は安全を第一に考えて行先を選定しており、今後も予約が増えると想定されます。大阪、成田、羽田から直行便があり販促を強化する必要があります。世界自然遺産登録を目指している地域であり、沖縄と違った魅力を企画に取込む必要性があります。

 今九州観光推進機構では国内外へのPRを強化していますが、自治体や各観光関連団体でも現状を的確に伝えることが求められています。昨年5月の口永良部島新岳の噴火の際は、12km離れた位置にある屋久島は噴火の影響はほとんどないにもかかわらず、観光客が減少しました。

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 桜島の噴火警戒レベルが4(避難準備)に引き上げられた際も、観光客が訪れる場所は規制地域外にあるにもかかわらず、風評被害に苦しみました。
 鹿児島市と桜島は錦江湾をはさんで一番近いところでも4km離れていること、また、桜島には約5000人の人が住み、常に噴火と対峙しながら生活をしていること等県外の方々は実情をほとんど知らず、影響が大きかったと思います。今回の地震による鹿児島の自然被害はほとんどなかったという事実は正確に伝えることで、消費者への不安感を取り除くことになります。

 2つの大動脈が復旧し、鹿児島へ観光客が来ることができるアクセスは整いました。鹿児島の通常の姿を伝えるべくイベントや四季折々の自然の姿、市民生活などメディアやSNSなどを通して発信していくことが大切です。

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 また、昨年世界文化遺産に登録された「旧集成館事業」を中心とする「明治日本の産業革命遺産」は、薩摩の先見性を伝えるすばらしい観光資源です。日本の近代化の礎ともなった施設を、改めてPRする時期ではないでしょうか。

 エージェント向けには、海外や国内の主要都市圏を中心に説明会を開催しており、ある程度鹿児島の状況について理解は深まっていると思います。海外は現在4路線が就航していますが、日本での災害に敏感な上海とソウルに対して、観光庁、九州観光推進機構などと連携しより詳細な情報発信と関係者の招請活動が必要です。
 海外メディアの直接招聘や有力ブロガーによる発信を強めることも必要です。エンドユーザーにいかに鹿児島の真の姿を伝えるかが大切なことです。

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 これからの鹿児島は梅雨を迎え、観光客が減少する時期となります。一般の旅行が低迷している中で、特にメディアによる募集ツアーの集客状況の勢いが感じられません。心理的に鹿児島への旅行が敬遠されていることから、思い切った商品企画、価格等もカンフル剤となります。
 一方ではマイカー、レンタカーなどを利用する個人の観光客が増えていることから、それを促進する施策を計画しています。話題の観光施設や地域の食、直売店等立ち寄りたくなる情報も必要です。

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 ところで心配されていた筑紫地区中学校19校、4000名が今年も9月に鹿児島を訪れ、来年度も鹿児島に行くという連絡がありました。行程の変更はあったものの、予定通り実施されることになりほっとしています。校長会等に定期的に出席し、桜島の安全対策等も説明してきた成果だと捉えています。
 これからも、学校や父兄の皆様が心配する懸案事項に対して、資料等を配布することで鹿児島の魅力や安全対策などを理解していただく努力が欠かせません。

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 誘客活動は大都市圏ばかりが注目されますが、まず地元の方が出かけることで地域の魅力を知る機会にもなります。近隣の客は、リピーターにもなります。
 鹿児島県観光誘致促進協議会、旅館関連団体、各エージェントの組織を活用しこれから域内キャンペーンを推進します。各施設に「熊本地震」に対しての募金箱を設置しています。是非ご協力をお願いいたします。
 そのことで地域を元気にし、少しでも熊本県の支援に繋げられたらと願っています。

No.410 まず域内旅行で遅れを取りもどそう~影響は長引く、不退転の覚悟で~

2016年5月9日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

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 4月14日熊本地方でマグニチュード(M)6.5、17日には(M)7.3の地震が発生し、その後、阿蘇地方や大分県中部でも(M)5クラスの地震が起きました。鹿児島市内でも両日大きな揺れを観察し、地震の怖さを実感しました。
 国内では、1995年1月17日の阪神・淡路大震災、2011年 3月11日の東日本大震災以来の大きな地震で、熊本市周辺、南阿蘇地域で大きな被害が出ています。改めて自然の驚異に驚かされました。

 今度の震災により、博多駅と鹿児島中央駅を結ぶ「九州新幹線」が13日間、また、「九州自動車道」も15日間不通となり、2つの主要幹線のストップは地域経済に大きな痛手となりました。一日も早く遅れをとり戻したいものです。

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 九州観光推進機構では「九州は一つ」をスローガンに国内外での観光客誘致に取り組んでおり、今後も連携強化してPRに努めなければなりません。
 今回の地震で熊本城、阿蘇地域、湯布院といった九州を代表する地域が被害にあいましたが、広域の観光を考えると大きな痛手であり、今後南九州3県の誘致戦略も見直しが想定されます。

 県内の観光地は、震災による道路や建物などの崩壊はありませんでした。日頃と変わらない姿はきちんと発信していかねばなりません。
 九州各県を訪れる外国人観光客は、7割が東アジアの国々からですが、地震等の災害にはすぐに反応します。中華人民共和国駐福岡総領事館は、震災後熊本県への旅行見合わせ、九州の他の県には渡航に慎重を期すよう求める注意を喚起しました。鹿児島への影響も出てきています。 
 海外とは直行便が4路線あることから、SNSなど活用して個別に情報を発信することで、少しでも取り消しを減らせたらと思っています。

 例年だと本格的な観光シーズンを迎え、特に修学旅行生が動く時期ですが、キャンセルや変更が増えています。新大阪からの直通列車が完全に復旧することが不可欠であり、その際は引き続き鹿児島へのコースを選択してもらうよう働きかけを強めねばなりません。

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 オフ期への変更の場合は宿泊、運輸機関等の料金を割り引くなどの前広な対応が学校現場の信頼につながるのではないでしょうか。そのことが修学旅行実施時期の平準化のきっかけになるかもしれません。

 一方、一般の旅行先としては、当面九州方面を避けて、北海道、東北、北陸、沖縄、離島等になることが想定されます。
 鹿児島としては、手をこまねいて回復を待つことは許されません。県内の主要宿泊・観光施設は、日々取り消しが拡大し、このまま推移すると地域経済への影響が拡大します。地域全体の空き状況やイベント、直売店、旬の食などの情報発信も強化しなければなりません。

 大都市圏の東京、大阪とは飛行機の便数が多く、特に関東方面からは充実しており、商品造成がしやすい条件がそろっています。また、九州新幹線が復旧しJRのパック商品の販売が期待されます。

 また、県内には28の有人離島があり、福岡から屋久島と奄美大島、大阪から屋久島と奄美大島、羽田、成田から奄美大島へ、それぞれ航空便で結ばれており、誘客しやすい環境にあります。これからの季節、山や海の美しさが一番輝く時期であり、世界自然遺産の登録地と候補地があることや体験メニューも多くPRに事欠きません。

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 大都市圏からの航空路線を活かし、その後県内各地、離島に誘客できる強みも活かさねばなりません。他県と競合しない魅力が誘致につながります。
 関西からの誘客には、新幹線を利用した商品の遅れを取り戻すことを念頭に、「さんふらわあ」の活用も考えられます。志布志港から佐多岬や「鹿屋バラ園」、内之浦ロケット基地など大隅地域への誘客に活用したいものです。

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 地震が収束すれば、九州全体での誘客キャンペーンの推進も必要ですが、実行には時間がかかることが想定され、こういう時こそ県民の皆様の協力が必要です。
 2015年の鹿児島県内の宿泊者総数に占める九州7県の割合は約45%であり、福岡県が11%、鹿児島県民のシェアは21%です。県内の利用者が一番です。(85施設の抜粋調査)

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 域内旅行の機会を増やすことは宿泊者を増やすことになり、県民が地元の魅力を認知して、PR効果を発揮します。
 夏休み前までは厳しい状況が想定され、宿泊・観光施設では、県民の利用促進のため期間限定で何らかのサービスを提供したらいかがでしょうか。施設も自ら動かねばなりません。

 鹿児島県は南北600キロに及び、豊かな自然、多くの泉質を持つ温泉地、歴史、農水産物、2つの世界遺産、2つの宇宙基地、D&S列車など豊富な観光資源があります。

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 今回の震災の影響は、従来の水害、台風、桜島の風評被害等に比べて、はるかに大きいと捉えています。県、各自治体、観光団体が連携してこの危機を乗り越えねばなりません。エージェントの商品造成に対しては、コンパクトで売り易く、消費者へのメリットを明示するなど緊急に販売できる態勢づくりも考慮に入れる必要があります。

 熊本、大分県が完全復旧して始めて鹿児島の観光も再生できます。それまで県民が観光の持つポテンシャルを認識し、自ら情報発信に努めていただくことを期待します。



                旅上   ~萩原朔太郎~

  ふらんすへ行きたしと思へども   ふらんすはあまりに遠し
  せめては新しき背広をきて     きままなる旅にいでてみん。
  汽車が山道をゆくとき       みづいろの窓によりかかりて
  われひとりうれしきことをおもはむ
  5月の朝のしののめ        うら若草のもえいづる心まかせに。
                        「純情小曲集」より

No.409 日本の旅館文化を守ることの大切さ~旅館は厳しい経営環境に立たされている~

2016年4月25日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光



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 高度成長期からバブル期にかけて旅行は団体が主流で、貸切バスに揺られて名所旧跡を巡り、夜は温泉地の旅館に宿泊して宴会を楽しんだ方が多いのではないでしょうか。
 好景気に後押しされて、新しい施設のオープンや増改築が目立ち、宿泊者の増加は地域経済にとって大きな支えとなりました。



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 しかし、その後低成長時代が続き団体旅行も激減し、また国民の生活スタイルが洋風化して個室化が進み、日本の伝統文化を守ってきた日本旅館を利用する人が減少しています。
 現在日本旅館協会(2013年に国際観光旅館連盟と日本観光旅館連盟が合併)に加盟している施設数は、2015年で2991軒です。合併前の2012年には3855軒ありましたが、3年間で864軒も減少しています。
 大きな要因として、国民の旅行スタイルの変化に加え、宿泊者の減少や後継者不足による廃業、他の利用施設への転換、倒産などがあげられます。


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 全国の主要ホテルの2016年の平均客室利用率は、インバウンドが好調なこともあり79.2%の高利用率を確保しています。一方旅館は3名~5名の定員の部屋に、2名もしくは1名入っており、主要旅館の定員稼働率は36.0%であり、厳しい経営を強いられています。旅行形態は団体から個人旅行に変化しており、ホテルやビジネスホテルは、シングル、ツインと分けられそれぞれの料金体系が明確になっていますが、旅館は部屋の構造上、宿泊者数に合わせた料金体系を明確にすることが難しく、適正な料金の収受ができていないのが実情ではないでしょうか。
 旅館経営の厳しさがここにあります。ホテルに比べて人手がいるのは旅館です。それなりの料金を取らないと、なお一層経営は厳しいものとなります。


 また、ここにきて、旅館経営が厳しくなっている要因として、1995年に策定・施工された「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が、大型施設の維持管理に大きな負担を強いていることです。2013年に二度目の改正が行われ、不特定多数の人が利用する建物のうち大規模なものについては耐震診断を行い報告することを義務付け、その結果が公表されることになりました。


 耐震診断が義務付けられるホテル・旅館は、1981年5月31日以前に新築工事に着手した建物で、階数3以上かつ床面積5,000平方メートル以上で、防災拠点建築物や避難路沿線建築物として指定された施設が対象です。


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 診断結果を報告することを義務づけていますが、耐震改修については努力義務とされています。診断の結果は行政がホームページで公表し、改修工事をした施設には日本建築防災協会が適合マークを交付することとなっています。
 修学旅行の受入に当たっては、学校からの入札の仕様書に「適合マーク取得の施設」と条件が加えられると、選定に有利に働くことから大きな武器ともなります。


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 一方では、適合マークのある施設が少ないことは、修学旅行を誘致する際地域全体での誘客が制限されることになり、地域への影響は大です。
 このたびの、熊本、大分両県で発生した大地震で、宿泊施設も大きな被害を受けました。耐震改修への義務化が強化されるのではと懸念されます。公的支援や一定期間の猶予等政治的決断が求められます。


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 旅館は夕方のチェクインから翌朝の出発まで、安全管理が求められます。また、夕食、寝具の準備、部屋の夜回り、朝食の準備などを考慮すると、一定の従業員の確保は不可欠です。しかし宿泊者は季節変動があり、オフ時期を考えると常用雇用の人員にも限度があるのも事実です。従業員が少ない中での営業力確保も大きな課題です。
 労働環境も夜が遅くて朝も早く、人が休んでいる間に仕事があることから、若者が集まりにくい状況もあります。待遇改善も大きな課題です。


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 消費者の皆様も旅館の現状を理解して、日本の伝統文化を守るべく、適正な価格維持にご理解をお願いしたいと思います。
 特にエージェントの皆様には価格設定にご配慮いただき、ウインウインの関係を構築していただきたいと願っています。旅館の応援者になることが自らの企業を維持発展させることになるのではないでしょうか。


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 外国人観光客が急増しており、その受け入れ態勢の充実には旅館文化も欠かせません。日本旅館は、湯茶の接待、大浴場、浴衣、料理によって違う皿、部屋に飾られる花、清潔な布団など日本独特の文化を提供しています。外国人にとっては一度にさまざまな日本文化に触れることができることから、和室旅館に宿泊することを好みます。
 大都市圏に集中している外国人を鹿児島に呼ぶためには、鹿児島ならではの体験メニューや食、おもてなしの心、温泉等旅館の素晴らしさを提供したいものです。


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 昔の文人墨客たちは、日本各地を旅行しながら旅館に滞在し、多くの作品を発表しました。尾崎紅葉、島崎藤村、夏目漱石、若山牧水、川端康成、横光利一、太宰治、林芙美子、与謝野鉄幹、井上靖、有吉佐和子らです。


 文豪志賀直哉は兵庫県にある城崎温泉にある「三木屋」という旅館を定宿としてこよなく愛し、そこで名作『城の崎にて』を生み出しました。
施設は木造3階建ての建物と300坪の庭園があり、古風な雰囲気の中にも風格を感じさせる創業260有余年の老舗旅館です。


 その三木屋という旅館を舞台に、今も変わらない城崎温泉の外湯めぐりの様子も描かれているのが次の有名な小説です。旅館の雰囲気と城崎温泉の情緒が絡み合い懐かしい光景が浮かんできます。日本の原風景には、旅館が似合います。



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 「城崎では彼は三木屋というのに宿った。俥で見て来た町のいかにも温泉場らしい情緒が彼を楽しませた。高瀬川のような浅い流れが町のまん中を貫いている。その両側に細い千本格子のはまった、2階3階の湯宿が軒を並べ、ながめはむしろ曲輪の趣に近かった。
 また、温泉場としては珍しく清潔な感じも彼を喜ばした。一の湯というあたりから細い道をはいって行くと、桑木細工、麦藁細工、出石焼き、そういう店が続いた。ことに麦藁を開いてはった細工物が明るい電燈の下に美しく見えた。
 宿へ着くと彼はまず湯だった。すぐ前の御所の湯というのに行く。大理石で囲った湯槽の中は立って彼の乳まであった。強い湯の香に、彼は気分の和らぐのを覚えた。
 出て、彼はすぐに浴衣が着られなかった。ふいてもふいても汗がからだを伝わって流れた。彼は扇風機の前でしばらく吹かれていた。そばのテーブルに山陰案内という小さな本があったので、彼はそれを見ながら汗のひくのを待った。・・・・・・・・・・・・・・」                     小説『暗夜行路』 志賀直哉著より

*休日が続くため、次回は5月9日に配信します。楽しい連休をお過ごしください。

No.408 最近の観光マーケットから~ゴールデンウイークは地元にめを向けよう~


熊本、大分 両県で発生した地震により、大きな被害を受けた地域・皆様に
心より御見舞を申し上げますとともに、一日も早い復旧をお祈り致します。


2016年4月18日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光



 先日まで賑わいを見せていた桜の名所は、嵐が去ったかの如く静かとなりましたが、新緑に覆われた木々は一段と鮮やかに感じられます。


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 今日本で一番人気の観光特急列車「ななつ星in九州」は、「肥薩おれんじ鉄道」を通るコースに運行がかわり、沿線の駅では思い思いの歓迎風景が見られました。これから毎週木曜日、鹿児島中央駅から串木野、川内、薩摩高城、阿久根、出水と北上していきます。薩摩高城駅では、東シナ海に沈む夕日を見て近くの海岸を散策してもらうために、30分間停車します。列車の豪華さとともに各駅でのおもてなしが注目されます。新しい観光の始まりです。


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 茶どころ鹿児島では間もなく新茶の季節となり、茶畑にあかねたすきに菅の笠をかぶった女性の姿も見られるようになります。南九州市の頴娃地域では、お茶摘み体験や茶を使った創作料理が楽しめるグリーンティーリズムが人気となっています。地域資源を活用し、都会では体験できない新しい取り組みが、来訪者に感動をもたらしていると感じます。


 ところで、鹿児島県の宿泊客数は、新幹線全線開業の平成23年からこの5年間毎年伸びていますが、鹿児島市内、霧島、指宿地域で、全体の65%を占めています。これらの地域から県内各地にいかに広げるかが重要であり、地域資源を掘り起こし磨き上げ商品化し、プロモートして誘客に結びつける取組が大きな課題です。従来の待ちの姿勢では顧客は離れていくばかりで、積極的な販促活動が重要となっています。


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 時間短縮効果や「鹿児島中央駅」が南の終着駅となっていることから、新幹線利用客は安定しており、その客を誘導すべく各自治体も交流人口を増やす取組に力を入れています。
 伝統食、直売所、古民家、古刹、世界遺産、ローカル鉄道など地域資源を活用した旅行商品化も進められています。
 昨年発生した口永良部新岳の噴火や一時的な桜島の噴火警戒レベル引き上げ等の影響は、まだ残っていますが、風評被害を一掃すべくPRや販促活動に力をそそがねばなりません。
 インバウンドは引き続き好調ですが、株価低迷等もあり国内景気は不透明感が漂っています。


 さらに今年は地震や参議院選挙やリオオリンピックがあり、国内旅行は停滞することが予想されます。一方北海道新幹線開業は、誘客にとってマイナスではなく北の大地に新幹線が到達したことを受け、プラス要素として捉えることが大切です。夏休みには日本列島を縦断する若者の利用が増えるのではないでしょうか。
 新幹線はこれから6年間新しい開業がない中で、南の終着駅がある鹿児島の魅力をもっと前面に出したPRを行い、常に新しい需要を開拓することも求められます。


 まもなく、ゴールデンウイークがやってきますが、今年は5月2日と6日を休むと10連休となります。この時期の需要はファミリー層が中心で、滞在先で何ができるかが顧客の選択肢の一つになることから、地域の旬な情報発信が求められます。


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 県内の宿泊施設を取材すると、5月1日、2日、5日、6日、8日の5日間は空室がある施設が多くみられます。多くの方がこれから休暇計画を立てるため、休みを取って行きたくなる地域の情報を提供しなければなりません。ファミリーで体験できるメニュー、平日や連泊することでのメリット等を明示することが宿泊者を増やすことになります。申し込みも間近が増えており、宿泊日の滞在メニューにメリハリをつけることも新たな需要を開拓します。(4月11日現在)


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 県民の皆様が地域の魅力を体感し、発信することが一番の誘客対策になります。鹿児島中央駅に新幹線が着くと観光客の目に飛び込んでくるのが、最近頻繁に噴火している桜島です。
 桜島の島民約5000人は、噴火時でも普段の生活を営んでいることを伝えていくことが安心感を与えます。桜島の噴火している美しい景観を、観光客に提供することが感動をもたらします。湯之平展望所からの景観や温泉堀体験、埋没鳥居等の火山の遺跡、寄り道クルーズ等の魅力も一緒に伝えたいものです。


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 昨年7月に「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録され、中でも長崎市の軍艦島はブームとなっています。全国8県11市23の構成資産はシリアルノミネーションであり、そのスタートは鹿児島の「旧集成館事業」です。「世界自然遺産」と「世界文化遺産」という2つの世界遺産を持つ唯一の県であり、県民自らが遺産の価値を理解して語らないと、観光客は増加していかないと思います。多くの県民に文化遺産を見る機会を提供しなければなりません。


 2年後には明治維新150周年を迎えます。明治維新150周年は、薩摩の偉人たちが果たした役割を考えると、鹿児島がその優位性を発揮でき観光も飛躍させるチャンスになります。


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 その2018年に照準を合わせ、鹿児島を題材にした大河ドラマの制作をNHKに働きかけています。朝の連続テレビ小説「あさが来た」では薩摩出身の五代友厚が人気となり、彼の誕生地や銅像は新たな観光地になっています。メディアの発信効果は多くの分野に経済効果ももたらします。
 2008年の大河ドラマ「篤姫」では小松帯刀にスポットが当たりました。大河ドラマは例年6月頃に発表される予定ですが、決定すれば、世界文化遺産の認知度向上、教育旅行の誘致に弾みが付きます。厳しい環境のなかで、次につなげたいという大きな想いがあります。


 一方では、観光PRの手法も多様化しています。パンフレット、広告、大都市圏での説明会、メディアの招聘事業、ホームページ等で鹿児島の魅力を発信してきました。 価値ある情報を拡散させ、ムーブメントをつくるためには、B→Bに加えてB→Cも重要になっています。個人のフェイスブックやブロガー、ツイッター、ユーチューブ、動画など多様な媒体を使ってコアの層への情報発信を強化していかなければいけません。作り手の思いやストーリー性を交えながら生活者が共感を抱く情報発信が求められています。


 また、最近の旅行スタイルは団体旅行から個人旅行にシフトして、滞在先では地元の人がよく行く飲食店や生活文化に触れることを望んでいます。「地理的表示保護制度」も導入され、地域がよりわかりやすい商品提供も求められます。県民の皆様がふるさとの良さに気づくことが重要であり、そのことが自信をもって遠来の客をおもてなしすることに結びつきます。


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 県内でもこれから、「志布志お釈迦祭り」、「2016吹上浜砂の祭典in南さつま」等様々なイベントが開催されます。そこに行けば何が体験できるのか、周辺の食の魅力や宿泊情報など「生活者にとって価値があり得する情報」が必要です。


 今年のゴールデンウイークは、地域の生活文化に触れる旅行の計画を立てませんか。鹿児島の新たな魅力に気付く機会になります。
 観光地では人が動くチャンスを逃さず、長時間滞在していただくメニュー提供や宿泊したくなる取組が必要ではないでしょうか。



             絶 句

    江碧鳥逾白 山青花欲然 今春看又過 何日是帰年


        江碧(みどり)にして 鳥逾(いよいよ)白く

        山青くして 花燃えんと欲す

        今春看(みすみす)又過ぐ

        何れの日か 是れ帰る年ぞ

                  ~杜甫~
※杜甫の代表作で不遇な時代、望郷の念を読んだ詩です。


プロフィール

奈良迫プロデューサー
鹿児島県
観光プロデューサー
奈良迫 英光
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