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No.341 「先用後利」の精神 ~富山の薬売りの心に学ぶ~

2014年12月15日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

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 今年は日本列島例年になく冬の訪れが早く、北国から大雪の便りが届きます。雪の少ない鹿児島でも、慌ててストーブを出した家庭も多いのではないでしょうか。私の故郷大隅半島は鉄道が廃止され、今では車が移動の手段です。小学生の物心ついたころ、大きな袋を抱えて、年に数回家を訪問する薬売りのおじさんを良く見かけました。



 箱から薬を出して畳に並べ、在庫を数え少なくなった種類の薬を確認し、新しいものを箱に詰めている様子が印象的で、子供全員で取り囲んで見ていました。薬屋さんが最後にくれる四角い紙風船をもらうのが、何よりもうれしかったのを覚えています。空気を吹き込み破れるまで遊んだ経験をお持ちの方が多いのではないでしょうか。体の具合が悪いとすぐ箱から薬を取り出して、母親が飲ませてくれました。

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 富山の薬売りは、「越中売薬」と言われ、300年以上の歴史があります。医者が少なく、交通機関もない江戸時代から全国津々浦々を回り、貧富の差を問わず家に薬を置かせてもらっていました。しかもくすり屋さんは、「先用後利」という考え方に立ち、「先に使ってもらい、使った分だけ後で料金をいただく」というシステムです。

 まず、各家庭を訪ねて薬の箱を置いてもらう。この時点ではお金はいただかない。箱には「風邪薬、塗り薬、腹痛の薬、虫下し、傷薬、赤チンキ等」が入っており、緊急の際大変役に立っていました。数か月後、また、薬を置いた家庭を一軒一軒訪ねてまわり、使った分の薬代を払ってもらうシステムでした。信頼関係、助け合いの精神がなければ成り立たない商売です。

 苦しかった時代に農家の方々を励まし助けたエピソードが残っています。昭和の始めの頃、北海道が2年続けて凶作に襲われ、農家は大きな被害を被りました。苦しかったのは農家だけでなく、「富山の薬売り」にとっても大きな痛手となりました。

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 くすりの入れ替えに農家を訪問しても、凶作で十分食事も取れてない家庭もあり、子供たちの顔を見ると、とても代金は取れない心境になり「お金のことは心配せずに、病気になったら薬を飲ませて子供を元気にしてください。私は富山に帰ったら畑や田がありますから大丈夫です。」と新しく薬だけ補充して帰って行ったといいます。

 農家の人を励まし、笑顔を絶やさず、「越中おわら節」を唄いながら村を歩き、中には富山からお米を取り寄せ、袋に少しずつ分けて配って歩いた薬売りもいました。厳しい時代には富山の自分の畑や田を売って薬売りの仕事を続けた方もいたと言います。

 その後北海道は、大豊作に恵まれました。それまで滞っていた薬代が、一度に回収できるようになり、薬屋が宿泊している宿まで届ける農家の方もいたと言います。また、「他の支払いを後回しにして、薬代を先に払わなければ」と恩義を感じて、雪解けを待ち続けた家もあったと言う。「お客様は家族同然」という強い信頼関係の構築までには、永年にわたる家庭と「富山の薬屋さん」との、琴線に触れる助け合いの物語があると思います。

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 最近はテレビショッピングが盛んで、薬、健康器具、食品、電気製品、衣類等ほとんどの品物が電話一本で買えます。「効果抜群」、「30日以内は返品自由」、「今電話いただいたらプラス1本サービス」等巧みな言葉に引きこまれ、製品を購入している方も多いと感じます。

 購入は本人の自由判断であり、止める理由もありません。しかし「富山の薬売り」と比べると、心の通い方が全然違います。直接会って商売することと、効率よく電話で注文を取ることの違いだけですが、「富山の薬売り」は、直接目の前で説明されることで安心感と信頼関係が生まれるような気がします。永年顧客から信頼されている企業は、なるほどと言う取り組みが定着しています。160年の歴史を誇る老舗の菓子屋さんは、お釣りは必ず新札で渡します。

 日中国交回復に貢献した故田中角栄首相の心を動かしたのは、中国の故周恩来首相が指示して出した新潟県柏崎市の味噌と言われます。

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 田中首相が訪中した折、田中首相の好みを事前に調べ、徹底的に研究し、首相の好みの天保2年創業の「越後みそ西」の、田舎みそを使ったみそ汁を朝食に出したところ、本人が大感激し、周恩来さんの気配りに心を動かされ、交渉がスムーズに進んだと言われています。

 これからの企業発展には、経営者の「志」が反映され、「オンリーワン」、「ファ―ストワン」の商品を提供し、商品のストーリを語ることが勝ち残る条件になると思います。

 「富山の薬売り」の信頼関係構築に学ぶことが多くあります。成熟時代を迎え、物が売れにくい環境にありますが、顧客との信頼関係を構築することで、価値の高い「こだわりの品」が売れる時代ではないかと思います。
                            参考:おもいやりの心:木村耕一著

          薬のむ ことを忘れて 久しぶりに
                    母にしかられしを うれしと思へ(え)る
                                    ~石川 啄木~

No.340 商品と地域のブランドづくりに必要なものとは~差別化、品質保証、優位性、住民への浸透がかぎ~

2014年12月8日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

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 日本の各地域が交流人口拡大につなげようとブランドづくりに努力しています。ブランドづくりの方策として、商品開発や魅力あるまちづくり等があげられます。地域が「世界遺産」に登録されると知名度は一気に上がり、ブランド化が取り組み易くなります。

 ブランドの語源は、ヨーロッパのアルプス地方で行われている羊や牛などの家畜に押す焼印(BURNED)に由来すると言われています。他人の家畜と区別するために使われ、現代では他の類似品との違いを明確にするために使われています。

 ブランドとは、他との比較において優位性を認める記号であり、かつその記号に象徴される世界観であると定義されます。ブランドは生活者の心の中につくられるもので、認証マークやネーミングを作り、商品に付けたとしてもブランドが作られるものではありません。

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 地域ブランドとは、地域発の産品・商品・サービスのブランド化と地域のイメージそのもののブランド化(統合された地域ブランド)が相互に作用しあって形づくられたものです。屋久島や尾瀬、富良野など特徴のある自然・景観を有する地域は、地域イメージから新たな商品を生み出し、経済的効果の創発も可能となります。



 地域イメージの特徴の薄い地域では、地域の商品やサービスを開発することで、地域そのもののイメージのブランド化を図ることが可能となります。一度形成されたブランドも常に新しく変革して行かねば、生活者の心の中に留まることはできません。

 地域をブランドすることで得られる効果も大きいものがあります。他の地域と明確に違う優位性を確保できれば、「商品」は高く販売でき、多くの利用者が集まることになります。軽井沢や神戸、湯布院が良い例です。

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 継続して価値を創造し、地域ブランドを拡張していくことで、地域の商品への波及効果も大きくなります。地域をブランディングすることは、消費者から選んでもらえる地域にもなることです。他の地域ない優位性や独自性を発信し続ける努力も必要です。

 また、地域をブランディングすることで地域住民が地域に誇りと愛着心を持つことにも繋がります。来訪者の増加にもつながり、地域経済への波及効果も大きくなります。

 日本各地で地域資源を活用してブランド価値を高めている町を紹介します。町並み保存では、福島県の「大内宿」、愛媛県の「内子町」、南九州市の「知覧町」等があります。国の重要伝統的建造物群保存地域がその代表的な例です。

 大内宿には、かやぶき屋根の古民家が並び、訪れる人が参勤交代の途中の宿に立ち寄る雰囲気に浸ります。3つの地域に共通していることは、看板の制限や古民家の保護、生垣や庭園等が整備されているのが特徴であり、小奇麗な町並みが保全されていることです。歴史的遺産を地域住民がきちんと守ってきたことが、地域ブランド化を図ることに結びついていると感じます。

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 生態系の保護地区では、釧路湿原、尾瀬沼、四国の四万十川、屋久島等があげられエコツーリズムの推進には最適な地域です。JTBが調査した「日本人が行きたい世界遺産地域」として、屋久島が第一位に選ばれました。

 屋久島の住民は、世界自然遺産の島に住んでいることをもっと誇りを持っていいのではないでしょうか。四万十川は清流がブランドであり、尾瀬沼の景観は、「夏の思い出」の唱歌にでてくる自然が人々を惹きつけます。

 「奄美・琉球」が世界遺自然産に登録されると、奄美ブランドとしてその魅力が世界中に発信され多くの観光客が訪れるものと思います。外国語表記の充実、通訳案内人の養成、おもてなしの心の醸成等がブランド価値を高めます。

 民話・伝統芸能も地域のブランドづくりに欠かせません。岩手県の遠野市は、柳田国男の「遠野物語」で紹介され、「民話の里」として有名になりました。市民演劇も開催され、日本の原風景に憧れ多くのファンが訪れています。

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 富山市八尾町の「おわら風の盆」は、越中おわら節の哀切感に満ちた旋律にのって、町の道筋で無言の踊り手たちが洗練された踊りを披露します。哀愁のある音色を奏でる胡弓の調べなどが観光客を魅了します。元々旧八尾町の町内の住民が大切に守り育んだ民謡行事です。9月1日から3日にかけて行われており、今では25万人もの観光客が訪れます。 

 町の踊りが、全国的に有名となり、富山県を代表するブランドとして人気が高まっています。高山市、金沢市等近隣の県まで宿泊客が及びます。

 「東北4大祭り」、「京都3大祭り」、奈良「東大寺2月堂のお水取り」、「博多どんたく」、「徳島の阿波踊り」、「高知のよさこい踊り」、「長崎おくんち」等ブランド力のある祭りがありますが、地域の生活文化に根差して全国的に人気が定着していることがブランド価値を高めています。

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 約300年前から伝承される薩摩川内市の「東郷文弥節人間浄瑠璃」は、国内で4か所にのみ伝承される貴重な伝統芸能です。もっと出演の機会を提供し、日本の伝統文化を引き継ぐ若者を養成するなどして大切に保存して行く努力が求められます。そのことがブランド化に繋がるのではないでしょうか。



 商品のブランド化には、品質保証、差別化、優位性、地域住民にも浸透していることが不可欠です。わが町をブランド化するには、本物のストーリー性を持った商品展開と継続した情報発信ができる態勢づくりが重要ではないでしょうか。
             参考:旅のもてなしプロデユーサー技編 ぎょうせい

    津軽の雪
         こな雪 つぶ雪 わた雪 みづ雪 かた雪 ざらめ雪 こほり雪
                              ~太宰治の小説『津軽』から~

No.339 国内外からの交流人口をいかに増やすか~地域総力戦で誘客を~

2014年12月1日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 今年も残り1カ月となりました。衆議院の解散で、12月14日投票日となり、年末商戦をひかえて、旅行需要が停滞することが想定されます。後半の忘年会旅行等を取り込まねばなりません。

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 ところで、2011年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した県の総人口将来推計は、2010年と比較して2031年には25万2千人減少します。人口減少に伴う県内消費額は20年間、毎年約152億円も減少していきます。


 また、「日本創生会議」からショッキングな調査データも発表されました。子供を産む年代の若者女性の数が、2040年には 10年と比較すると、県内の30市町村で半減すると指摘しています。地域別将来推計人口が公表され、大きなショックを受けた方が多いのではないでしょうか。消滅する市町村も想定されるなど人口減少は、今深刻な課題を我々に突き付けています。

 観光庁の試算によると、定住人口の1人当たりの年間消費額(124万)は、旅行者の消費に換算すると外国人旅行者10人分、国内旅行者(宿泊)26人分、国内旅行者(日帰り)83人分にあたるとしています。『観光交流人口増大の経済効果(観光庁:2013年試算)』

 少子高齢化と人口減少に対応し、地域の活性化には持続的な交流人口の増大が不可欠となっています。

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 ところで、JNTOから外国人の入込客の速報値が発表されました。1月~10月までの国全体の累計では1,100万9,000人となり、すでに昨年の年間実績を上回っています。このままで推移すると、1,300万人に達すると上方修正しています。

 好調の要因として円安効果、入国ビザの緩和、LCCの就航、免税品目の拡大、和食や祭り等伝統的日本文化の魅力が浸透していることなどがあげられます。本県においても外国人の宿泊客は20%以上の伸びとなっており、今年は過去最高の外国人が訪れるものと思います。

 このように市場環境の変化を考えると、地域は国内外を問わず積極的に交流人口拡大を推進する必要に迫られています。地域資源を活用して、県外か県内、海外、教育旅行等、わが町にどの地域からどのような需要層を誘客するのか、具体的な対応を講じていかねばなりません。観光のスタイルも変化しており、それに対応できる地域づくりも求められます。

 まず団体旅行から個人旅行の流れが顕著となり、個人旅行が全体の7割となっていることから、駅や拠点地域からのルート整備が不可欠です。鹿児島市はシティビューが運行され、観光地巡りには事欠きません。地域に於いて周遊バスの運行は、経費の面で難しい面がありますが、拠点地域や駅と連動した送迎バスの運行、レンタカーやタクシーの常駐など利便性の確保が重要です。

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 また流通構造が変化しており、予約行動にも大きな変化をもたらしています。インターネットはすでに日本人の約8割が活用しています。宿泊施設では空室状況が検索でき、直接予約できるシステムの構築が必要であり、それに対応できる人材の配置が不可欠です。

 観光協会、地域おこし団体等では、ホームページの日々の更新等が求められます。鹿児島県観光サイト「本物。の旅かごしま」には毎日約8,000人のアクセスがあり、前年比で140%の伸びとなっています。

 観光のニーズも変化しています。名所旧跡巡り、宴会を主とした狭義の観光から生活、文化等地域の魅力に触れる旅へと広がっています。観光は6次産業の視点で、地域の総合産業として捉える必要があります。異業種、異分野と経済が循環することが持続できる地域となります。農業、漁業、商工業、歴史、生活・文化、住民等を観光資源として捉え、ストーリーを加えて商品化することが求められます。

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 体験・交流が顧客のニーズであり、安全・安心、本物の提供が観光客の心を捉えます。特にイベントは一過性に終わらせるのではなく、他地域と連携する等いかに継続できるかが地域ブランドとして育っていきます。指宿の「菜の花マラソン」や「菜の花マーチ」は、全国から人が集まるまでに5年はかかっています。行政頼みではなく、民間の活力、人材の育成等が継続の力となります。

 また、外国人誘致も今後地域活性化の重要な課題となります。日本人の国内旅行は、少子・高齢化でマーケットは縮小していきます。台湾、香港、韓国、中国、ASEAN諸国等からは確実に増加しています。相手国の生活・習慣を知り、外国語表記、通訳案内人の育成、留学経験者や受入外国人を活用して、地域の魅力を発信し告知力を高めることです。

 他県にない鹿児島ならではのメニュー提供が差別化となります。砂蒸し温泉、桜島の噴火、世界自然遺産、漁業体験、武家屋敷での着物や華道等日本文化体験が喜ばれます。

 最後に観光客に県境はありません。隣県や同じ観光資源を持つ競争地域と連携することも知名度が上がり誘客につながります。市町村を繋ぐ観光地の整備や着地型商品の充実が、広域観光ルート定着の鍵となります。

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 自分の町は知られていないという考え方に立って、食、特産品、お祭り等をPRして、地域のことを解り易く発信することも重要です。旅行者の満足度を向上させるためには、おもてなしの心をいかに定着させるかも問われます。


 今年は、大きなイベントもなく観光客誘致には厳しい面もありました。甑島への高速観光船運行、「薩摩藩英国留学生記念館」オープン等北薩摩地域で話題が多い年でした。2年目以降も、観光客を維持できるかはこれからの取組にかかっています。常に新しい情報の発信に努め、市民もわが町の魅力を語り伝えることが大切です。

 来年は、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の世界文化遺産登録目標や、「第30回国民文化祭」の開催が大きな目玉となります。交流人口拡大は地域活性化の重要課題です。ポテンシャルの高い優れた地域資源を活用し、地域総力戦で戦う時ではないでしょうか。

       「寒いね」と話しかければ
                「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
                                   ~俵万智~

No.338 バリアフリー旅行の受入拡大がなぜ必要か~旅の感動に段差はありません~

2014年11月25日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 高齢化社会を迎えて「バリアフリー旅行」についての関心が高まっています。県と観光連盟では、かごしま観光人材育成塾の一環として、今回初めて『ユニバーサルツーリズムセミナー』を開催したところ、110名の参加者がありました。初めて知るマーケットの実態や現場の具体的取組が報告され、今後参考になる点が多く皆さん熱心に講演を聞いていました。

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 観光庁は「ユニバーサルツーリズム」について、「すべての人が楽しめるように創られた旅行であり、高齢者や障害などの有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行」と定義しています。バリアフリー旅行より広義に及び、妊産婦や子ども連れなども含めています。

   団塊の世代が退職し、老後はゆっくり旅をしたいというニーズの高まりや、健常者と障害者が安心して旅行を楽しむことができる「バリアフリー旅行」のマーケットが拡大しています。しかし住民や受入機関によって関心の度合いに温度差があり対応が遅れているのも事実です。

 今回まず、特定非営利活動法人日本バリアフリー観光推進機構の中村元氏から、現在の取組状況や今後の課題等についての基調講演がありました。講演を受けて、九州運輸局企画観光部長の榎本道也氏、特定非営利活動法人 eワーカーズ鹿児島理事長の紙屋久美子氏、霧島温泉 旅行人山荘代表取締役の蔵前壮一氏を交えてパネルディスカッションを実施しました。

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 中村氏の本業は水族館プロデューサーであり、顧客視点に立った展示や運営、及び入館したくなるプロモーションを行う等集客対策を専門とされています。伊勢の鳥羽水族館にバリアフリー対策を講じ、施設や実際見学している状況等のPRを実施したところ入場者数が大幅に増加した実例を発表されました。中村さんがプロデュースされた施設では、来館者が増加しています。

 障害者手帳を持参している人は、一人での来館は少なく同行者を含めると4人程度で来る方が多く、障害者手帳を持った方の入館者が増えると、全体の入館者増に繋がると話されました。また、障害者が観光地に行きたいとういう願望を実現するためには、健常者も同行して楽しめる環境づくりが重要と感じました。

 中村氏はバリアフリー旅行について、マーケットの需要があるのを見のがしている。また、来訪者を増やす対策としてはパーソナル基準を守り、トラブルをなくすためにも、積極的に相談センターを活用して欲しいと熱く語りました。

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 榎本部長は、バリアフリーと福祉が混同されて業務改善が進まないことや、自分が同行し世話することは困難である、マーケットは小さいと思っている人が多く、対応できる施設が増えないこと等をあげていました。


 観光庁として、全国20箇所ある相談センターを今後増やし、点から面への展開をすすめて、2020年の東京オリンピック、パラリンピックを見据えて海外からのお客様への対応も考慮しなければならないと語りました。

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 紙屋さんは実際日々バリアフリー対策に取り組んでいる中で、住民への理解不足を解消すべく情報を広げることが重要であると。また受入施設の拡大や施設の具体的表示の重要性も語りました。


 霧島温泉で人気のある宿泊施設を経営している蔵前社長は、障害者が利用しやすいように部屋に露天風呂を造り、エレベーターを増設する等受入態勢の充実に努めています。

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 また、教育の機会を増やす等ソフト面の充実にも力を入れており、障害者への言葉遣いやおもてなしの心を学ぶ勉強会を開催しています。その効果もあり、日頃受け入れている宿泊者から従業員の対応について、感謝の言葉が増えているという相乗効果も語られました。

 最近の旅行エージェントの企画を見ると、「旅をあきらめない!夢をあきらめない!」、「杖や車いすで旅を楽しむ」等バリアフリーの旅が増えています。また専門の部署を持つ会社もあります。旅行はエージェントだけでなく、鉄道、バス会社、宿泊機関やその他関係機関の協力、それに従事する職員の努力が顧客満足に繋がります。これからバリアフリーのマーケットは拡大しますが、内容の充実が求められおり、ツアーを企画する会社もその点に十分配慮して欲しいと思います。

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 前述したように、バリアフリーツアーは、物理的障害を取り除くだけではなく、情報、文化、規範、そして我々の心や考え方等様々なところに存在する「バリア」を取り除くことが、まず大切ではないでしょうか。国民の意識の中にバリアフリーツアーの考え方を理解して浸透させることが、日本においてユニバーサルツーリズムが定着できるかの「鍵」になると信じます。

 皆さまの家族、親戚、友人、あるいは周囲に、高齢者や障害を持っている方は多くいらっしゃると思います。皆さんに旅行の感動を味わせたいものです。心の中の「バリア」を取り除き、一緒に旅に出て楽しみましょう。

         小春日和の青白い光が、山麓の村に降りそそいでいる。
                    『たそがれ清兵衛』の最終章:藤沢周平

 小説の舞台である「海坂藩(うなさかはん)」のモデルは、庄内藩(現在の山形県鶴岡市が含まれる)です。鹿児島市の姉妹都市です。ぜひ桜の花が咲く頃お訪ねください。

No.337 地域資源の旅行商品化と地域全体のパッケージ化の重要性~プロモーション力をいかに強化できるか~

2014年11月17日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

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おりたちて けさの寒さを おどろきぬ
      つゆしとしとと かきの落ち葉深く
                   ~伊藤左千夫~

 11月も半ばを過ぎ、朝夕の涼しさに冬の訪れが近いことを感じます。

 県の9月の観光動向調査が発表されました。(サンプル調査)それによると、宿泊客数は9月単月では0.2%の増となり、1月以来前年を超えましたが、累計では2%の減となっています。最シーズンの8月に大きな台風が来襲して、宿泊等の取消が相次ぎ観光客の減少に繋がりました。残された2カ月で減少分を取り戻すべく、積極的な誘客活動に努めたいと思います。

 今年も、これからの地域づくりや観光地づくり、観光素材発掘、商品造成、情報発信等を担う人材育成を目指し、「第7回かごしま人材育成塾」を開催しました。今回は、過去最高の120名が参加しました。

 講座の概要について簡単に紹介します。

 第1講座は、県観光交流局の五田観光地整備対策監が、「観光かごしまの現状、魅力ある観光地づくり、スポーツツーリズム」について講演しました。

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 地域の人口が1名減少すると、1年間で120万円の消費が失われて、それをカバーするためには宿泊観光客や外国人観光客の誘致が不可欠であると強調されました。また、毎年取組んでいる「魅力ある観光地づくり事業」では佐多岬の整備計画が進み、バリアフリー対策などを施し、2年後には新たな魅力ある観光地として脚光を浴びるのではないでしょうか。

 「スポーツツーリズム」について、「さんふらわあ」を活用し関西地域からの大学生のスポーツ・合宿が増加して、大隅地域の活性化につながっているという事例も発表されました。また「プロキャンプ誘致」や6年後の東京オリンピック、国体の開催をにらんだ整備、誘客態勢について戦略の一端が語られました。

 第2講座は、「株式会社まちづくり計画研究所 代表取締役 今泉重敏」さんが【まちづくり仕掛けのハウツー】について講義しました。

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 元町役場の職員を10年間経験され、今では九州における地域づくり、まちづくりの"のぼせもん"仲間のネットワークの代表世話人として活躍されています。全国に約1万人の人的ネットワークを持ち、まちづくりコーディネーターとして実践に基づいた笑いの絶えない講話でした。

 自治体の総合計画、観光ビジョン、中心市街地の活性化、過疎地活性化、校区単位のまちづくりや将来ビジョンの策定等には、住民が喜ぶ(楽しめる、求める)姿を描く必要がある。絵に書いた餅に終わらないよう、小さな成功事例を創っていくことの大切さを語りました。沿道や集落に、自ら仕掛けた人形や案山子などユニークな展示物は、観光客誘致だけでなく、住民の参画意識を育てているという話など目からウロコが落ちる心境になりました。

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 地域や商店街の活性化に向けた「笑標語」として、「笑売繁盛 笑顔の店には客・福来る」、「笑顔あふれる笑店街 上笑気流に乗る笑人の町」等「笑」という言葉を組み込んだ造語には、なるほどと感心させられるばかりでした。また聞きたい話でした。


 第3講座は、「第30回国民文化祭におけるおもてなし」でした。

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 中村朋美さんから、「おもてなし10カ条」や挨拶の仕方等具体的な手法で、参加者が眠る隙もなく、講義されていました。挨拶の仕方として「同時礼」より、言葉を発して後から頭を下げる「語先後礼」が丁寧であると、また、押すドアと引くドアではお客様の案内の仕方が逆になるなど我々が日頃気付かない貴重な話を聞くことができました。

 国民文化祭は、県内全ての市町村で文化行事が開催されることから、県全体としておもてなしのレベルアップが求められます。「おもてなしの極意」や鹿児島の観光をつなぐ示唆に富んだ話でした。

 第4講座は、日本一の鰹節の産地である枕崎市で、新たな食文化に取り組んでいる中原水産常務の中原晋司氏による【出汁(だし)による地域活性化】でした。

 いま、日本の伝統的食文化が脚光を浴びています。枕崎の漁師が船上で食べる丼飯からヒントを得た「枕崎鰹船人めし」は、県内の地域グルメのNO1を決める「Show 1グランプリ」で2年連続1位に選ばれました。

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 枕崎市の人口減に危機感を感じている中原常務は、特産の鰹節を活用して特産品の開発やPR活動、イベントの創出等地域おこしを自ら実践されています。観光客の前で鰹節を削り、香りが漂うその出汁を顧客に提供することで、安全安心をもたらし、関心を持って観光客は迎えてくれます。

 枕崎を「出汁のふるさと」にしたいと言う大きな夢も抱き、物産と観光を融合させ地域に人を呼び込み、元気にしたいと言う取り組みは、必ずや広がっていくと思います。今度指宿、枕崎線を利用して、指宿の観光協会と連携しワイン列車を走らせ、地産品のつまみ等もPRします。ローカル線を守る取組の一つにもなるのではないでしょうか。

 第5講座は、現在県・連盟のホームページについて、指導いただいている株式会社 トラベルジップ代表取締役 大泉敏郎氏による【観光業界・観光客のトレンドとWebサイト活用方法】でした。

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 大泉氏によると、10年程前は航空券のエージェントの発券率が7割を占めていましたが、現在では75%がインターネットの直接予約にかわっているとのことで、流通構造の変革が急速に進んでいることを指摘されました。大泉氏の指導により県観光サイト「本物。の旅かごしま」 も改善しており、アクセス回数は飛躍的に伸びています。

 観光客が求める情報はどこにあるのか、また見たくなるホームページのあり方について、具体例をあげて説明がありました。ホームページに掲載する情報は、正しい順位と優先順位を常にチェックする必要があると鋭い指摘がありました。地域の情報発信には、人材育成と情報の商品化、PR体制の強化が不可欠と感じた塾生が多かったのではないかと思います。

 最後の第6講座は、薩摩川内市の甑島で「地域おこし協力隊」として活躍されている関美穂子さんによる、【「ヨソの目」が地域に入ることって?~地域おこし協力隊の事例紹介~】でした。

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 地域おこし協力隊とは総務省の人材活性化・連携交流室の事業の一つです。 関さんはエージェントでの経験から、日頃より地域が主体の着地型観光に興味を持っており、薩摩川内市に採用された一人です。現在下甑島に暮らしながら、特産品開発や旅行商品の企画等に取り組んでいます。

 島の住民に地域の活性化策を理解してもらうために、自分の意見を無理強いするのではなく、どうしたらお手伝いできるか、ヨソものがもっているものが地域を元気にする契機となる思いで取組んできました。ヨソの地域に入り込むためには、お互いの差異の自覚、尊重、相互の強みをいかしていくことの必要性を強く語りました。

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 よそものの視点で捉えた甑島の観光素材を商品化し、PRして販売していくそのサクセススト-リーが聞けたのではないかと思います。甑島には、水戸岡鋭治氏設計による、観光高速船が就航し話題の島となっています。島の魅力とともに彼女の今後の活躍に拍手を送りたいと思います。

 今回受講者が増加したのは、講座の選択も可能としたことが上げられます。また、夜学塾は、参加者同志や講師陣とのコミニユケーションの場となり、講座で聞けないより具体的な話が聞けたのではと思います。

 観光のトレンドは、団体旅行から個人旅行にシフトしており、県内の宿泊機関のデータでみると7割が個人客です。そのことが翌日の行動に現れます。趣味を求めて、トレッキング、美術館・博物館・歴史資料館巡り、温泉、ショッピング、ドライブ等行動範囲も広くなり、地域の情報をWEBサイトでいかに発信できるかが重要です。

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 またエージェントへの依存だけでなく、地域主導の着地地型商品の充実も求められます。今年に入り外国人が増加しており、県全体での累計では19.9%増加しています。増便や円安効果、免税制度の拡大など追い風が吹いています。


 地域では受入態勢の整備が急がれます。大都市圏から地方への流れも一気に進んでくるものと思います。地域づくり・観光地づくりには人の存在が重要であり、地域資源を旅行商品化し、そして地域全体をパッケージ化して、プロモーションするという作り込みが必要です。

 今まで人材育成塾を受講した方の多くが、それぞれの地域で頑張っていることは、鹿児島の観光の広がりが進みつつあり、大きな財産となっています。九州新幹線全線開業から3年8ヶ月、転換期をむかえている鹿児島の観光です。この講座が人材育成とさらなる地域活性化につながることを期待しています。

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三七七八米の富士の山と、立派に相対峙し、みじんもゆるがず、なんと言うのか
金剛力草とでも言いたいくらい、けなげにすっくと立っていたあの月見草は、よかった。
富士には、月見草がよく似合う。
         ~太宰治『富嶽百景』から~

プロフィール

奈良迫プロデューサー
鹿児島県
観光プロデューサー
奈良迫 英光
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