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No.424 「奄美・琉球」の世界自然遺産登録に向けて~まず県民が奄美群島を訪れましょう~

2016年8月22日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


 奄美諸島は、鹿児島の南380~580キロメートルの海上に点在する島々で、奄美群島とも呼ばれて、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の8つの島があります。


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 世界的にもまれな亜熱帯性降雨林をはじめ、温帯林の特徴を残す山地林から河口域のマングローブ林、熱帯性植物からなる海岸植生、砂浜からサンゴ礁までバラエティーに富んだ景観美を示しています。環境省は「奄美・琉球」の世界自然遺産候補地として、奄美大島、徳之島、沖縄本島北部、西表島の4島を軸に対象地域を検討しています。
 早ければ2017年度に国連教育科学文化機関(ユネスコ)へ推薦し、2018年度中の世界自然遺産登録を目指しています。


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 奄美・琉球が世界自然遺産に登録されると、県内では屋久島に次いで2箇所目となり、鹿児島県の知名度が飛躍的に上がるのは確実です。国内では白神山地(青森、秋田県)、知床(北海道)、小笠原諸島(東京都)に次いで5件目の世界自然遺産登録地となります。
 また、昨年7月、「旧集成館事業」等3件が「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録されており、鹿児島県は現在2つの分野の世界遺産を持つ唯一の県です。


 日本で最初に世界自然遺産に登録された屋久島は、その後観光客は増え続け、2007年度には屋久島への入込客が40万人を超え最高となりました。ここ3年間(2012年~2014年)の屋久島への入込客数は30万人前後で推移していますが、今でも日本人が行きたいNO1の世界遺産となっています。(首都圏のエージェントの調査による)
 また、縄文杉登山は、登山家の憧れの地として人気が定着しています。


 一方では、登山者の増加に伴い縄文杉の展望デッキ、登山道やトイレなどの整備は常に必要で、植生の荒廃、し尿処理問題等が大きくクローズアップされています。
 現在、入山者に対する入山料の徴収が検討されており、来年以降実施されると思います。やはり山の自然を守るためには、受益者負担で協力を求めていくことが好ましい取組と思います。自然保護と観光振興の狭間で屋久島は、世界自然遺産の島を守りながらいかに経済的価値を求めていくかが問われています。
 また、旅行エージェント等を通して、募集段階での自然保護の遵守等の告知徹底が必要です。


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 奄美群島はこれから「世界自然遺産登録」に向けて、エコガイドの養成や登録制度、自然を守る取組等、屋久島を参考に進めていく必要があります。「世界自然遺産登録の意義」や「観光客増加への対応」等地域住民への細かい情報発信も求められます。
 長い年月をへて育まれた奄美群島の豊かな自然、「アマミノクロウサギ」等貴重な動植物の保護とともに、観光客への自然保護に対する意識向上、地域住民との共生をいかに図っていくかが問われています。


 また、沖縄と差別化したPR戦略が求められます。奄美は手つかずの美しい海や森林地帯が多く、多種にわたる動植物が生息していることから、自然の生態系を保護しながら観光客にいかに見せるかが重要です。
 また、春先は本土に比べて花粉が少ない島であることから、ヘルスツーリズムの推進も欠かせません。 


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 名瀬港は大型クルーズ船の寄港が容易であり、登録後は外国人観光客が増加することから、受入体制の充実も求められます。
 奄美群島は、すでに世界自然遺産に登録されている「白神山地」、「知床」に比較すると、温暖な気候に恵まれ1年中行くことができます。また、「小笠原諸島」は飛行機の定期便がなく、東京から船で24時間かかります。同じ離島でありながら奄美大島と徳之島は、飛行機の定期便もありアクセス的には優位性があります。


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 ところで「世界自然遺産」に登録された際には、その効果を奄美大島と徳之島の2島にとどまらせるのではなく、群島全体にメリットをもたらすことが重要です。県外の方だけでなく、多くの県民も奄美群島の位置や魅力を知りません。まず県民が訪れて奄美群島の魅力にふれて欲しい。
 また奄美群島出身者の県人会は、関西、関東、鹿児島等多く組織されており、その人たちを通じてのPRもお願いしたい。
奄美群島が一体となり魅力をPRして、群島の知名度アップと経済的浮揚に繋げる必要があります。DMOの設立も予定されており、機能強化がまず求められます。


 大陸、琉球、日本文化の接点に位置した奄美の島々には、多彩な伝統文化、風俗、歳時、食文化などが残り、旅人を楽しませてくれます。伝統的祭りである八月踊りは、太鼓のリズムに合わせて唄い、観光客も踊りの輪にすぐ入ることができます。


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 また、各地に残る島唄は、集落に伝わる物語を唄にしたもので、どこか哀愁漂う旋律は心に響きます。奄美の島々は、今まで大きな開発がされず、「金作原原生林」、「井之川岳」、「昇竜洞」、「犬の門蓋」、「百合ヶ浜」等手つかずの自然が残る貴重な島であり、都会の人にとってはまさに秘島です。加計呂麻島は、映画「男はつらいよ」の最終ロケ地に選ばれました。


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 小生が始めて奄美大島を訪れたのは47年前でした。当時1500トンクラスの船は名瀬港まで12時間かかりましたが、デッキまで人があふれ、美しい海に憧れて若い女性層が奄美群島を訪れていました。
 現在、成田空港からLCCのバニラ・エアが就航し、大都市圏から気軽に行けるようになりました。奄美群島の各島間、また沖縄と奄美群島を結ぶ航空運賃の低廉化も実現しています。


 世界自然遺産登録後は、年代層を問わず世界各国から多くの人が奄美群島を訪ねることが予想されます。周到な準備を進めたいものです。
 世界自然遺産登録が奄美に大きな変化をもたらすとともに、交流人口が増大し新たな産業や雇用が生まれます。県民あげて盛り上げをはかりたいものです。 



            夏の月 薄らにかかり 砂浜の
            貝の葉めきて なつかしきかな

                      ~与謝野晶子~


No.423 夏休みの行事は子供の成長を育む~ラジオ体操で早起きの習慣を~

2016年8月8日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


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 お盆が近づき、空港や駅は家族連れの姿が目立ちます。今年は「九州ふっこう割」が導入され、宿泊地にもようやく客足が戻っているという感じです。
これから帰省と旅行を兼ねたファミリー層が一段と多くなって欲しいと願わずにはいられません。また、熊本地震で落ち込んだ観光客を回復させるためには、秋以降の旅行商品の売れ行きが気になります。


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 参議院選挙も終わり世の中が落ち着いたことから、熟年層の旅行需要を取り込むことが重要になっています。
「九州ふっこう割」は熊本県と大分県の割引率が高く設定されており、鹿児島としてはどちらかの県を周遊ルートに入れることで、旅行商品の値ごろ感が出てきます。特に鹿児島にない「祭り」や「自然景観」等を入れることが必要ではないかと思います。


 例年になく猛暑が続き、電気店のクーラーの売り上げが順調とのことです。やはり日本は四季がはっきりしており、その季節の普通の姿が経済活動にも良い傾向として表れると感じます。
冬は寒く夏は暑い方が、経済活動はうまく回転していくように感じられます。


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 ところで、毎年夏は節電の必要性が叫ばれていますが、クーラーを付けっぱなしにして寝ている家庭が多いと思います。昔は扇風機だけでクーラーのある家は少なく、田舎の家では虫対策として、蚊帳を吊って寝ていました。
家族全員で蚊帳の中に一緒に寝て、朝起きると自分が反対方向に動いて寝ていたことに気づき、思わず笑い出したものです。苦しいと言うより家に温かさがあり、どこの家庭でも見られた光景ではなかったかと思います。


       垂乳根(たらちね)の 母がつりたる 青蚊帳を
       すがしと居寝つ  たるみたれども
                          ~長塚節~


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 ところで、朝6時過ぎになると、私の住まいの真向かいにある松林に囲まれた公園から、小学生の元気な声が聞こえてきます。
「全国の皆さんおはようございます。」とラジオから流れるかけ声とともに、付き添いの親や小さな子供まで一斉にラジオ体操が始まります。私もベランダ越しに子供の動きに合わせて、一緒にラジオ体操をするのが毎朝の日課となっています。


 親の実家に帰省した都会の子供たちも参加しており、故郷の夏休み行事を楽しんでいるようです。子ども達は体操が終わると記録簿にチェックを受け、公園で遊び、PTA係の誘導で横断歩道を渡り、家路に急いで帰ります。地域の皆さんの協力体制が、子ども達の朝のラジオ体操を支えていると感じます。親たちが頑張れば続けられる夏休みの行事ではないでしょうか。


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 我々の小学生のころは、どこの地域でも毎朝見られた光景でした。集落単位で広場に集まり、先輩と一緒にラジオ体操をしたことが懐かしく思い出されます。体操が終わると、記録簿にスタンプを押してもらい、夏休みも終わりに近づくと皆勤賞をもらうことが何よりも楽しみでした。今では集団でこのようなラジオ体操をする姿は珍しくなりましたが、子ども達の夏休みの思い出づくりに役立ち、朝のすがすがしい空気に触れることで早起きの習慣も身に付くものと思います。残したい日本の原風景がそこにあります。


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 世間では「いじめ」や「校内暴力」、「親子の争い」等が問題になっていますが、子供の頃から集団生活の中での規律や支え合う心、我慢する心を育むことは大事なことと思います。
また、お盆には故郷に帰り先祖の墓に一緒に手を合わせて、先代からずっとつながっている命の大切さを教えることは、大事な経験にもなります。


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 子供たちが多くの体験を味わうことが成長の糧となります。夏休みも後半ですが、海水浴、親子サマーキャンプ、合宿等に積極的に参加し、思い出づくりの一つに加えませんか。

皆さん今年の猛暑を、乗り越えましょう。



        子供らが 鬼ごとをして 去りしより
          日ぐれに遠し さるすべりの花
                        ~島木赤彦~
*鬼ごと「鬼ごっこ」のこと


次回のコラムは、8月22日になります。


No.422 「九州ふっこう割」事業で鹿児島を元気に他県との連携も誘客につながる

2016年8月1日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


 熊本地震により、県内の宿泊施設や観光施設などはキャンセルが相次ぎ、地域経済に大きな影響を落としています。
 観光庁では、九州への観光客を早急に呼び戻すため、国内客などを対象とした割引旅行商品の販売を旅行会社と連携して行うことを発表しました。


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 「九州ふっこう割」旅行商品造成事業の助成金(補助金)は、Ⅰ期として7月1日から9月30日、Ⅱ期は10月から12月となっています。
 旅行需要期である夏休み及び秋の旅行シーズンの開始後、初期段階での需要回復を加速するため、7月及び9月を中心に思い切った割引率の設定が可能となっています。
 九州7県のうち、熊本・大分両県の割引率が大きく、鹿児島県にとっては、旅行商品価格面から考慮すると、2つの県と連携した商品企画も重要になるのではないでしょうか。


 通常ダイヤに戻った九州新幹線は最速で、新大阪から3時間42分、広島から2時間21分、博多から1時間17分で、観光客誘致には大きな武器となります。
 観光客の楽しみは地域の食であり、農業県かごしまにとっては、観光客との接点を増やし購買を促進することが、地域に大きな経済効果をもたらします。
 食のイメージは、観光客の心を惹きつける重要な要素であり、「本物。鹿児島県」を前面に旅行需要喚起を図ることが一番必要と感じます。 


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 今、観光客が求めているものは、地域のオンリーワンの情報です。「今だけ、ここだけ、あなただけ」の情報をタイムリーに発信して行くことが重要であり、商品企画に活かさなければなりません。


 各自治体の取組も活発になっています。人口減少や高齢化、産業や経済の低迷などで地域の活力の低下が顕著となっており、その打開策として観光振興による交流人口拡大に力を注いでいます。DMOの立ち上げやトップセールスの展開など誘致競争も熱が入ってきました。地域資源を磨き積極的に旅行会社に売り込んでいただきたい。


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 たとえば、出水市には、毎年秋から冬にかけて1万羽を超えるツルが飛来し、縁起の良いツル見学に毎年多くの観光客が訪れていますが、最近では、「着物を着て武家屋敷散策」がメディアでも取り上げられ、地域資源を活用した新たな取り組みとして注目を浴びています。今回の旅行商品に是非オンリーワンの企画として売り込んで欲しい。
 また、滞在時間を増やし地域に経済効果をもたらす取組として、グルメやスイーツ、お土産品等新商品の開発が求められています。


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 新幹線の時間短縮効果を活かし、いかに遠くに行かせるかも課題であり、その仕向け地は離島や大隅地域と考えています。
 珍しい地形がみられる甑島、世界で一番美しいといわれるロケット基地のある種子島、世界自然遺産の島屋久島、そして平成30年度に世界自然遺産登録を目指す奄美群島です。


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 特に種子島は、高速船だけでなく、定期便のない地域からチャーター便を活用した利便性のある商品企画が、遠隔地の割高感払拭となります。夏は海や登山など離島の魅力を体験できる絶好の機会です。また、種子島、屋久島は指宿と連携した取組が欠かせません。
 大隅地域は、錦江湾を渡るということがアクセス面で大きなネックですが、食や九州本島最南端佐多岬の魅力をPRすることが不可欠です。


 「肥薩おれんじ鉄道」は熊本と鹿児島両県の人々の生活・文化をつなぎ、また、美しい田園地帯と東シナ海を望みながら走る列車は日本の原風景を提供し、旅情をかきたてる人気のローカル路線です。新幹線と観光列車の組み合わせは売りの一つです。
 おれんじ食堂やスイーツ列車への女性客、外国人のさらなる誘客が求められます。


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 東アジアから九州への入込観光客は、海外からの交通アクセスが充実している北九州・中九州方面がメインです。福岡から1時間17分で来ることができる鹿児島への誘客には、コストの軽減化が不可欠です。
 甑島、桜島、天然砂蒸し温泉、屋久島、奄美など他地域にない魅力や鹿児島の安全性について、富裕層などブロガー対策も欠かせません。


 観光客は施設の魅力ではなく、地域の魅力に惹かれます。観光は農林水産業、商業、工業、土木、建築、福祉、教育関連等多くの分野と関連があり、総合産業としての位置づけが必要です。


 県内全域で観光客を温かくお迎えするなど、地域総力戦で取り組む必要があります。観光で来られた方々が、「日本の中に鹿児島というすばらしい地があって良かった」、「また来たい」と感じられる魅力ある地域であり続けることが大切です。


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 九州新幹線全線開業から5年5ヶ月が過ぎましたが、熊本地震で一時不通となり、改めて新幹線の重要性に気付く事にもなりました。
人吉や天草との連携、黒川温泉や熊本城の修復現場視察と鹿児島泊など多彩な旅行商品が出てくることを期待します。
 また、今回の制度を活用して鹿児島を訪れた観光客が、いつもと変わらない桜島の美しい景観や、世界遺産、温泉、食、マリンスポーツ、トレッキング等で楽しんでいる日常の姿を、積極的に全国に向けて発信することが、鹿児島への流れを加速します。
 「九州ふっこう割」を広域に活用し、鹿児島の観光再生のきっかけにしたいものです。



       夏のかぜ 山よりきたり 三百の
                牧の若馬 耳ふかれけり
                       ~与謝野晶子~
 


No.421 故郷を誇りに思う人に~あなたの好きな街の魅力とは~

2016年7月25日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


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 入道雲が青空高く映え、本格的な夏の到来です。高校球児が待ちこがれた夏の全国高校野球大会も、まもなく阪神甲子園球場で開幕します。故郷の応援を背に、県代表の活躍に期待したいものです。


 先日鹿児島中央駅前の広場で、和歌山県から観光に来られたというご夫婦に、声をかけられました。 鹿児島は初めての様子で、「観光したいのですが、どこかお奨めの場所はありませんか」と尋ねられました。私は、「まず城山に行き、そこから鹿児島市街地と錦江湾に浮かぶ桜島の遠望を見てください。その後船で対岸に渡り、湯之平展望所からの桜島の豪快さと生きている火山の姿を見てください」と言いました。


 また、翌日のコースとして鹿児島の歴史を知ってもらうため、明治維新の原動力となった偉人を育んだ資料が展示されている「維新ふるさと館」や「仙巌園」をすすめ、そしてまち歩きの魅力を伝えました。シティビューに乗り市内の名所を巡ることもできますよと案内しました。県外観光客には、まず鹿児島市のシンボル桜島と歴史を知っていただくことが大切だと考えているからです。


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 仕事がら旅行先では地域のことを、よく自分の足で確かめるよう心掛けています。チェックイン前や早朝に時間があると散策を楽しみます。街並みや看板、観光地表示に自然と目が向きます。 良い景観や落ち着いて趣のある掲示板などはカメラに収めて、景観セミナーなどの勉強会で活かしています。早朝は人が少ない分、街の雰囲気がよくわかります。河畔でジョギングしている人から朝の挨拶が返ってくると訪れてよかったと思います。一方、ゴミが散乱している街もあり、がっかりすることも多くあります。やはり整備の行き届いている公園や、挨拶したら人の声が返ってくる街はうれしいですね。


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 ある日の電車の中での光景です。週刊誌を夢中で読んでいる30歳前後の母親に、5歳ぐらいの女の子が聞いていました。「ママはわたしのこと好き」と。すると母親は、「わかりきっていることをなんで聞くの」と強い口調で一言。子供は悲しそうな顔をしていました。子供に声をかけられたら強く抱きしめて、頬ずりしながら「世界で一番好きだよ」と言ってあげれば子供はどんなに喜んだことかと思いました。何気ない対応が子供の成長にとっては重要なことです。五感の大切さを学びたいものです。


 旅先で初めて降りた駅でタクシーに乗り、運転手さんに「観光したいのですが、どこかお奨めの場所はありませんか」と聞くと、「わが町には観光するような場所はありません」とそっけない言葉が返ってくると愕然とします。その町を訪ねたことを後悔し、最初から気が重くなります。せめて食の名店でも教えてくれれば、印象が違うのにと思うことでした。観光客が降り立つ駅や空港、タクシー、連絡バス等接遇の大切さが問われます。


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 全国1200軒の民家に宿泊しながら地域の生活・文化を研究し、民俗学者として知られた宮本常一という作家がいました。生まれ育った山口県周防大島の人々に見送られて故郷を離れるとき、父親からこれだけは忘れぬようにせよと、十カ状のメモを取らされました。 その中の三つを紹介します。


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 一つは、駅に着いたら街全体が見渡せる一番高い所へ登って見なさい。そして方向を知り、目立つものを見なさい。峠の上で村を見おろすことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見て、家のあり方や田畑のあり方を見、周囲の山々をじっくり見ておくこと。そして山の上で目をひいたものがあったら、そこは必ず行って確かめることだと。駅や神社・仏閣など主要な施設がどのような位置にあるのか、その街の成り立ちを十分理解しなさいということかもしれません。


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 二つ目は、金があったらその土地の名物や料理を食べておくのがよい。その土地の暮らしぶりや生活の高さがわかるものだと。地域で受け継がれている食の大切さを教えています。
 三つ目は時間にゆとりがあったらできるだけ歩いてみることだと。多くの住民に会い、話を聞くことでいろいろなことが教えられると。歩くことで集落のつながり、家の造りや生垣、生業等が理解できるようになると。旅の暮らしの中で身につけた父なりの人生訓ではないでしょうか。着地型観光の参考にしたいものです。


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 みなさんは他県の友人に、わが町のお勧めの場所を聞かれたとき、何をまず紹介しますか。そのためには故郷の良さを自ら確かめることです。
住民がまずわが町を知り愛することが、観光客に満足を提供できる一歩になるのではないでしょうか。熊本地震の影響で観光客が激減しています。一人一人のお客さまを大事にすることは当たり前のことです。一期一会の心で観光客を迎え、また来たいと思っていただける鹿児島づくりに努力していきたいものです。


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夏河を 越すうれしさよ 手に草履

             ~蕪村~


No.420 平成30年の修学旅行誘致に向けて~教育旅行にふさわしい体験メニューを前面に~

2016年7月19日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


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 例年ですと、5月、6月は鹿児島中央駅のコンコースには中学生の明るい声が響き、関係者が横断幕で出迎えるなど賑わいを見せるのですが、今年は閑散としていました。
 熊本地震の影響でほとんどの学校が、他方面への変更を余儀なくされたことが大きな要因です。平成30年に向けて、鹿児島へ再び来ていただく努力がもとめられています。


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 ところで平成27年の修学旅行入込状況調査がまとまりました。
 本県への修学旅行等の入込状況は、学校数(延学校数)は724校で、延宿泊数の前年の751校と比較すると27校減少し、人数(延宿泊者数)は、96,700人で前年の100,799人と比較すると4,099人の減少となりました。
 地区別では、霧島地区、種子屋久地区がそれぞれ4,000人あまり減少となり、延宿泊者数の前年割れの大きな要因でした。口永良部島新岳の噴火、桜島の噴火警戒レベルのアップ、霧島の大型修学旅行受入施設の廃業等が影響しています。
 風評被害が無ければ、1万人は確保できていたのではと悔やまれます。


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 これからの鹿児島への修学旅行誘致の取組について述べたいと思います。
 まず自然災害に対する情報発信の在り方です。県内には桜島、霧島、口永良部、硫黄島、諏訪瀬島など多くの火山がありますが、常に話題になるのは桜島の動向です。
 桜島の情報については、大きな噴火があるたびに観光誘致への影響を憂慮しますが、桜島は常に噴火する山であることを前提に、日ごろからの防災訓練や最新の火山対策等を発信していくことが、重要と考えます。桜島には5,000人の住民が住み、噴火時でもいつもと変わらぬ生活を送っています。
 快晴の日に噴火した桜島の姿に観光客は感動します。噴火している姿が日常であることを積極的に発信し、一方では安全対策がきちんとなされていることもしっかりとPRしていかねばなりません。


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 次に、修学旅行にはTDLやUSJ、ハウステンボス等エンターテイメント性の施設が人気となっているのは事実です。鹿児島県にはこれらの娯楽的要素の施設はありません。
 その観点からこれからも鹿児島の売りとしては、「本物。鹿児島県」を前面に、修学旅行の本質にこだわることが重要と考えます。農業県第3位の鹿児島を全面に出し、県内全域での「農業体験と民泊」、ブリ、カンパチ、クロマグロ養殖生産量日本一を誇る漁業の「えさやり体験」、明治維新の舞台を巡る鹿児島市での「歴史学習」、知覧や鹿屋での「平和学習」、桜島や霧島での火山・防災に関する「自然学習」、世界自然遺産屋久島での「環境学習」、種子島や内之浦での先端技術を知る「科学学習」等他県に負けないカリキュラムになっています。
 最近は、クラスごとの選択メニューや複数のカリキュラムを取り入れる学校が増えています。学校のニーズに合うユニークな体験メニューの提供、また、受入側の安全面に対する意識を向上させ、体験学習における安全性を確保することも求められています。



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 平成30年は明治維新150周年になりますが、鹿児島県はどの県よりもプライオリティを発揮できる年です。偉人を育くんだ土壌や情報収集力、人材育成等他藩に先駆けた取組等を修学旅行誘致に活かしたいものです。
 また、集約列車活用による修学旅行について、直通列車を増やす等輸送体系の充実を求めていかねばなりません。誘致の重点地域として、京都府、大阪市、西宮市、姫路市、岡山市、広島市、山口市、呉市、福岡市、佐賀市など新幹線沿線地域の中学校連合をターゲットに営業展開していく必要があります。


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 農家民泊が人気ですが都会の生徒さんの多くは、家庭で親との会話が少なく、民泊先での農家の方々との温かい心のふれあいに涙する生徒が多く、子供達の情操教育にも役立っているのではと感じます。鹿児島でのもう1泊は、市内や温泉地でのホテル宿泊がほとんどです。農家民泊と既存の宿泊施設との摩擦が懸念されますが、新しい需要開拓という視点に立ち、「競争」と「協調」の姿勢が相乗効果をもたらすと思います。


 日本独特の学校行事の一つである修学旅行は、春と秋の2シーズンに集中していますが、分散化を進めることでより良い修学旅行が提供できるのではないでしょうか。
 筑紫地区はオフ期の9月に実施しており、29年まで18校が鹿児島を旅行先に選んでいます。しかも県内に2泊することから、宿泊代、交通費、昼食、入場料、おみやげ代を含めると、一人当たり30,000円程度の消費額が想定され、経済効果も1億円を超します。


 6月には関西地域のエージェントを行政、宿泊施設、観光施設と一緒にセールスを行いました。また、8月には全修協、日修協の主催で関西の先生方の鹿児島への招聘事業を行う予定です。
 関東地域からは飛行機利用が多く、従来鹿児島に来ている学校を訪問して、引き続きの来鹿を要請する予定です。
 また、学校PTAなどに出席して、直接父兄に説明する機会を設けてもらうよう学校側にも働きかけています。
 鹿児島の実情(自然災害への安全対策、修学旅行先としての魅力)をいかに保護者に伝えられるかが、復活の鍵と捉えています。


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 最後に、受入施設も大変苦労を重ねていることを理解していただきたい。到着すると、非常口の説明や貴重品を預かり、夜の見回りと息付く暇がないほど24時間安全面に配慮しています。また、学校によっては、翌朝までに生徒が持参した水筒にお茶を入れる作業が待っています。水筒を洗い、中に入れる作業は早朝から始まり大変な重労働です。しかも無料になっているのが実情です。生徒さんに、せめて宿泊施設での買物許可を与えて欲しいと思います。旅行エージェントも何とかご協力を願えればと思います。


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 今年鹿児島から行先を変更した学校について再度来てもらうためには、今以上の継続的な営業努力が必要です。修学旅行の誘致は熾烈を極めており、常に新しい情報の提供、鹿児島ならではの体験メニュー、おもてなしの心を提供しなければなりません。
 平成30年に向けて官民挙げて誘致に頑張りたいものです。


           風わたる 見よ初夏の あを空を
           青葉がうへを やよ恋人よ
                     ~若山牧水~


プロフィール

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