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南大隅/照葉樹の森を訪ねて



 照葉樹の森へようこそ

「一枚の写真を見て、奄美か屋久島の森だと咄嗟に思ったのだけど、違った」
鹿児島県の観光会議で参加者が興味を持った場所があった。その写真には大隅の森が写っていたのだそうだ。
大隅半島を“自然”という視点から見たとき、連なる山々はとても深く、薩摩半島とは明らかに違う姿を魅せる。


 照葉樹の森が残っているということは、人の手が入らない自然が守られているということだ。開発が進むと落葉樹が増え、人工林は針葉樹林が多い。はるか昔、温帯に属する日本は、照葉樹の森に覆われていたはずである。

 大隅半島の南に、西日本最大級の照葉樹林があることをご存知だろうか。
稲尾岳、木場岳一帯の森林には、タブノキ、イスノキ、アカガシなどが古来の姿をとどめ、ルリビタキなどの野鳥、昆虫、サンショウウオなどの両生類が普通に生息している。
ここは、国から「森林生態系保護地域」「自然環境保全地域」「天然記念物」の指定を受けており“照葉樹の森”として、未来へ向けて残していく貴重な森として管理されている。







 誰でも気軽に散策できると聞き雨の降る中、管理事務所に向かった。
管理事務所は「稲尾岳ビジターセンター」として機能しており、照葉樹全体の情報センターの役割も果たしている。事務所といっても、たくさんの昆虫の標本や、本、森の生き物たちを開設したパネルなどがあり資料館に近い。一角には、木工細工を作れるスペースや森林学習を行うスペースがあったりと、十分勉強ができそうだ。ちなみにここには電気が通っていない。太陽光発電で必要な電力量を全てまかなっている。

 雨が降っているのが気になったが、合羽を着込み森に入った。特別に案内してくださったのは“照葉樹の森”管理事務所主任の東顕さんだ。「子供たちが遠足で来ると、『いつも同じ道歩いて飽きないの?』って小学生に聞かれます。全然飽きないよ~、って答えます」片道1時間以上の通勤時間も全く苦にならない。そんな東さんと歩くのは西口コース、片道1時間ほどで川の源流を目指す。
整備された山道はない、その代わりに、迷わないようオレンジ色の番号札がかけてある。清流に住むサンショウウオに出会えるだろうか。

 森に入って驚いた。写真でしか見たことのない屋久島の原生林を思い出した。
緑は雨に濡れしっとりと重く、苔むした石が幻想的な雰囲気を醸していた。突然羽ばたく鳥の羽音、足元を流れる川の音、虫や鳥の声。木の根っこに躓きながらもどんどん上流まで上る。「森の外は本降りになってきたみたいですね」。
確かに、耳をすませば雨の音がする。でも森の中は霧状の雨が漂っているだけだ、そうか、緑が傘になってくれているのか。空を見上げると幾重にも重なった木々の緑から、雨粒が数滴落ちてきた。
岩にふさふさした、緑色の毛皮のような苔が生えている。触ると赤ちゃんの柔らかい髪の毛のようで気持ちがいい。苔に触ってみたくなったのは生まれて初めてかもしれない。「これはヒノキゴケといって、別名“イタチの尻尾”です。触ると気持ちいいですよね」すかさずガイドが入った。「これは“ナルコユリ”、忍者が使う鳴子に花のつき方が似ているんです」。
名前が分かると途端に愛着が湧くから不思議だ。図鑑で写真と名前を比べても覚えられないのに、実際に見ると一発で覚えてしまう。「これはマムシ草の実です」「あ、そこの穴に蛇が住んでいるんですよ。ヒバカリっていう蛇で、小さいし噛まないし大人しいし毒もないのですが、鎌首をもたげる姿に迫力があるので、昔は、もし噛まれたら、命は“その日ばかり”だと思われていたからこんな名前が付いちゃいました」。日頃、街中でアスファルトの上しか歩かない人にとっては大冒険だろう。





サンショウウオの子供に出会えたのは源流に近くなってからだろうか、流れが淀んでいる岩陰に、5センチほどのサンショウウオがいた。
大人は20センチくらいなのだという。小さきものは皆美し、手足をバタバタさせながら泳ぐ姿が何とも言えず愛らしい。
種類は「オオダイガハラサンショウウオ」、奈良県の大台ケ原で最初に発見されたことでその名前がついた。子供は黒っぽいが、大人は美しいメタリックブルーの体色をしている。

 源流に到着した。下流の豊満な水の流れからは想像ができないほどのわずかな水が岩と岩との間で光っている。この一滴一滴が長いこと旅をし、森を潤し、川となり、海に注がれていく。いわば森の血液のようなものだ。
「この木を触ってみてください」東さんが指をさす、すべすべした木肌を触ってみた。ほんのり冷たい。「木の中に水が流れていて、これは他の木よりその管が表皮近くにあるんです。夏に触ると冷たくて気持ちがいいから、みんな触りたがって表面がツルツルになってしまって」と笑う。子供たちがはしゃぎながら競って木肌に頬ずりする様子が目に浮かぶ。木は根っこから水を吸い上げて、葉っぱで養分を作って…“私たちと同じように生きているんだよ”、教室ではできない授業を通して、大人も子供も何かを感じ取れたなら遠足は大成功だ。
今回はここで引き返したが、ここからまだ進めば稲尾岳の頂上に行くことができる、途中まで戻り、滝めぐりコースを歩いてみるのもいい。片道20分ほどで歩けるせせらぎの小道はもっと気軽、他にも、丘の道コースや木場岳登山コースなど体力や見たいものにあわせてさまざまな自然観察コースが用意されている。
なにせ、保全林の面積は1004ヘクタール、使い古された例えを使えば東京ドームが210個ほど入る。

 かつて日本にはこのような照葉樹の森がいたるところにあったはずだ。人々は、生き物の一員として森に畏敬の念を抱き、その恵みに感謝し、共存しあって生きてきた。その時代にはもう二度と戻れないだろうと考えたとき、私たちは、残されたこの自然の意味と価値をもう一度認識することができる。

鹿児島県照葉樹の森管理事務所

鹿児島県肝属郡錦江町田代麓久木野5166-647 電話090-7388-7470(衛星電話)





[ 南大隅 立ち寄りスポット ]

佐多岬

日本本土最南端、佐多岬。鹿児島県大隅半島の一番南である。もしもここを訪れるなら、鹿児島県地図ではなく、日本地図でもなく、まず地球儀を見て欲しい。小学生のときに習った緯度、九州本土の最南端は北緯31度だ。そのまま西に辿るとインドのニューデリーがある、さらに西に行くとエジプトのカイロ。
何が言いたいのかというと、南大隅は亜熱帯だということ。植生という面から見ても最南端は面白い。駐車場からクルマを降りて約20分歩くと見えてくるのは、日本最古の灯台のひとつが建つ佐多岬だ。
西郷隆盛 宿泊の宿

根占に狩猟に出かけていた西郷隆盛。
その際いつも宿にしていたのがこちら。
根占の海から道一本入ったところにある。庭に大きな穴のあいた石があったので何だろうと思ったら隆盛が愛用した風呂とのこと。県外からの客は、鹿児島県いたるところに未だ色濃く残る西郷の足跡に驚くことだろう。外観の見学は常時可能だが屋内の見学は事前に電話を入れて。

鹿児島県肝属郡南大隅町根占川北38 電話 0994-24-3151

内之浦宇宙空間観測所

鹿児島県は全国でも珍しくロケットセンターが2つあり、もうひとつはご存知種子島だ。
ここ内之浦は、1970年に日本初となる人工衛星「おおすみ」を打ち上げた場所として知られる。
門衛所で許可証を借りると自由にクルマで中に入れる、ドライブスルー見学が可能なのも面白い。門衛所の隣には宇宙科学資料館があり、どんどん下に下りていきながら、ロケットや人工衛星のモデルなどを見ることができる。日本で初めて人工衛星の打ち上げが成功したときに日本中から届いた手紙や電報、子供たちの作文なども展示されている。

宇宙航空研究開発機構 内之浦宇宙空間観測所
鹿児島県肝属郡肝付町南方1791-13 電話0994-31-6978 年中無休 開館8:30~16:30

さたでいランド

さたでいランドに“本土最南豚”を食べに行こう! 南大隅町にあるプレイランド内に“レストランさたでぃ館”がある。ここの名物は“本土最南豚”。人里離れた自然の中でのびのびと育てることで豚のストレスを軽減し、豚舎の給水に、ヨーグルトをまぜたものを使うことで臭みを消し、上質な豚肉になる。1日10食限定で出されるヒレカツ定食を頂いた。ボリューム満点で、全部食べきれないかもと思いつつ箸を入れたら驚きの柔らかさ。「絶対美味しいですよ」と胸をはる奥さまの言葉通りの味。昼の営業時間内であれば、豚肉の販売も可能。
さたでぃランドは、広大な敷地の中にレストランの他、バンガロー施設やプレイランドなど、全て見晴らしのよい丘の上にあり開放感抜群。
尚、レストランの営業は金土日祝日のみなのでご注意を。

鹿児島県肝付郡南大隅町佐多伊座敷5616 電話 0994-26-0800 レストランの営業は金土日祝日のみ レストラン営業時間 11:00~14:00・17:30~21:00

高山二階堂家住宅

鹿児島県南部の住宅形式に多い、「おもて」と「なかえ」の二棟造りからなる住宅。
二階堂行照が1810年ほどに建てたもので、保存状態もよく国の有形文化財に指定されている。茅葺の屋根が圧巻で、規模の大きさや、床の間に脇棚が作られているなど、武家屋敷の雰囲気も兼ね備える。
現在は誰も住んでいないが、最後に住んでいたのは衆議院議員の二階堂進氏。



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