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里・上甑 甑島の旅
トンボロ(陸繋砂州)
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行ったことのない場所に取材に行くときは、周りの人間にそれを言いふらすことにしている。「あそこからの夕焼けが綺麗だよ」「飲みに行くならどこどこがいいよ」等、運がよければ地元出身の人を紹介してもらえることもあるからだ。 今回も聞いて回ったのだがこれほど皆の意見が殆ど一致するのは初めてだった。
「キビナゴ旨いよ、魚がほんとに旨いから」
くしきの新港から高速船シーホークに乗り込む。上甑島の里港まで約50分の船旅だ。水深が深くなるほど藍色に染まる海を眺めているうちにすぐ到着。
甑島は、鹿児島西岸沖約40キロの東シナ海に浮かぶ島だ。北から上甑島、中甑島、下甑島に分かれ、南北に約40キロ、天気予報の地図で見るより大きく感じる。一番高い山で下甑の尾岳の604メートル、上甑はそれほど高い山もなく、特に里のトンボロ(陸繋砂州)は有名である。
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長目の浜
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トンボロの魅力は、上から見たその眺めももちろんだが、道の両側に海があることではないかと思う。しかも里はトンボロの上に集落が密集している。風が強いことも影響しているのだろう、家は平屋が多く、寄り添うようにして建っている。その景色を見ただけでも旅情がこみ上げて来る。
一路中甑へ、その前に有名な“長目の浜”をやっぱり見ておきたい。19代薩摩藩主島津光久がその眺望に感動し「眺めの浜」と名付けたことから来ている。写真で見てもそうだが、見れば見るほど不思議な眺めだ。鍬崎池、貝池、なまこ池という大小3つの池は、玉石でできた砂州によって海と隔たれている。その3つの池は、深さも水質も水温も生息する生き物も違うというこれまたミステリアス、そのうち貝池には世界で3箇所しか確認されていないクロマチウムという藻類が生息している。
甑島の名前の由来となった甑大明神は、中甑の端っこにある。荒々しく切り立った断崖の上になるほどこしきの形をした岩が乗っている。
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左から馬場水産の馬場雅巳さんと干物。甑島館(宿)のキビナゴ刺身。キビナゴ冷凍前の手際よい作業。
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珍しいものを食べさせてくれると言うので“居酒屋 忠”を訪ねた。出されたものはクロダイの“焼っきり”。 クロダイの表面を炭火で焼いて、刺身にするこれは、皮と身の間が少し溶けてなんとも言えない旨味を醸す。それだけでも旨いが、クロの白子や真子、胃袋に肝も刺身で頂いて、とろけるようなその甘い食感に大騒ぎしてしまった。 「これは旨いからほとんど漁師が食べてしまって(笑)、流通しません、というか新鮮じゃないと食べられないから出来ない」。ご主人の浜さんは自他共に認めるプロの釣り師だ。この店にはメニューがないので、旨いものを食べたいなら早めに予約しておまかせしては。
夜中3時。きびなご漁に出発する船に乗せてもらうことができた。キビナゴは夕方頃になると餌であるプランクトンを食べる。そのプランクトンが消化されるのが夜中3時頃。漁場に着いた船はいったん停泊し、水中に光源が沈められる。光に集まってくるキビナゴを網にかけ一気に掬う。 シンとした真っ暗な海に、銀色の魚が躍る。しかし、キビナゴは海からあげた途端に死んでしまう、繊細な魚なのだ。そう考えると、鮮度がいかに重要か分かる。掬ったばかりのキビナゴに醤油を垂らして一匹丸ごと口の中に入れた。キビナゴはうろこが無いので口の中で引っかかることも、小骨を感じることもない、全く臭みもなく、柔らかく噛み締めると旨味がゆっくり口の中に広がる。これまで食べてきたキビナゴの刺身とは明らかに違う。まさしく絶品、たかがキビナゴだなんて思っていたのが恥ずかしい。本物は探せば案外近くにあるものだ。
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「居酒屋 忠」のクロダイの焼っきり、新鮮な白子、真子、胃袋に肝は絶品! 「漁師の干物や」の様々な商品。軒先で焼いていただいた干物、最高でした。
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昨夜のキビナゴ漁でも思ったのだが、甑島は若い男性が元気だ。他人任せではなく「自分が」という独立精神と多少の反骨精神に、皆で協力しながら切磋琢磨していく勢いがある。 海から上げるとすぐに痛んでしまうキビナゴを、島の外にも新鮮な刺身で提供したいと考えた日傘山誠さんもそうだ。 普通に冷凍しても刺身として食べられるが、それでは解凍したときに水分と一緒に旨味が逃げてしまう。そこで、薬品の冷凍にも使われるプロトン凍結法を採用。細胞破壊を防ぎ、冷凍したときの氷の粒を最小にすることで、新鮮そのもののキビナゴが食べられる。東京にも売り込みに行き、商品開発、販売ルートなども模索中だ。 日傘山さんと一緒に開発に取り組んでいるという馬場水産を訪ねた。加工場で汗を流す雅巳さんは、大学卒業後水産会社に入社し、大手スーパーに転職。家を継ぐことなんて考えていなかったが、今はやりがいを感じているという。「魚を捕るところから加工して、店に卸し、実際に客がどんな商品を望んでいるのかまで全ての流れを見てきたのが今とても役に立っているんです。例えば1000円で売れるはずのものが500円でしか売れなかったりするとその理由を僕は多面的に考えることが出来る。今度東京の東武百貨店で甑島フェアをしますが、その時に漁師に直接魚を売ってもらうようにしたんです。漁師が直接消費者と触れ合う機会なんてないし、どうすればもっと魚が売れるか漁師も考えるようになれば素晴らしい。 スーツを着込んだコンサルタント会社の人ではなく、ニットの帽子を被って作業服で魚をさばく雅巳さんが生き生きとこのようなことを語ることに感動してしまった。
海沿いの道に、可愛い看板を見かけて思わず入った。“漁師の干物や”は、息子さんが漁師、そのお母さんと若奥さんが干物を作る。キビナゴはもちろんアジやカマス、いろんな魚の干物が並んでいる。すべての塩加減はお母さんのキワ子さんの指が決めるらしい。縁側でカマスとアジを焼いてくれた。いつのまにかキビナゴも乗せてくれた。焼き過ぎないのがコツらしい。 若奥さん曰く、東京から来た観光客に自慢の干物を食べさせるまではよかったけれど、焼酎は出すわ家に上げてもてなすわ、で客は大感激。こんなこと都会では絶対にない、と大喜びで帰っていったそうだ。記念撮影は孫の翼ちゃんも一緒にパチリ。
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<データ>
甑島館(ホテル) 鹿児島県薩摩川内市里町里1619−15 0996-93-2121
URL http://www.koshikishimakan.com/
居酒屋 忠 鹿児島県薩摩川内市里町里3499 0996−93−2746
17:00〜24:00 休 日曜
馬場水産 鹿児島県薩摩川内市里町里164 0996-93-2004 営/8:00〜17:00 休 日曜 全国発送も受付
漁師のひもの屋 鹿児島県薩摩川内市里町里3538 0996-93-2225 休みなし(日中はほとんど開店)全国発送も受付
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