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No.429 人の行動を見抜く感性を養う~相手の心に寄り添うことの大切さ~

2016年9月26日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


 秋の気配を日々感じるようになりました。繊細な四季の変化は、日本人の美的感受性を高め、紅葉の名所には多くの観光客が訪れるものと思います。


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 澄んだ秋空に子供たちのにぎやかな声が響きます。マスゲームのにぎやかな音楽、かけっこのピストルのスタート音、応援団を鼓舞する太鼓の音などまさに運動会シーズン真っ盛りです。子供たちの小学校時代の良き思い出として、しっかりと心に刻まれることでしょう。
 小学校の運動会は、夫婦兄弟だけでなく、祖父母等親戚総出で応援に行きたくなる行事です。やはり、ひたむきに一生懸命走り競技に打込む姿が、感動を呼びます。


 先日心温まる話を聞く機会がありました。講演で印象に残ったA航空会社のCA(キャビンアテンダント)のSさんの話を紹介します。旅の楽しみの一つに目的地までの列車や飛行機の旅があります。機内での客室乗務員の心温まる対応が、あるご夫婦にとって忘れられない旅となりました。


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 離陸前の出来事です。飛行機が出発する際は、乗務している複数のキャビンアテンダントが、お客様のシートベルトのチェックを行い、「全員が着用完了」の連絡があり次第、飛行機は動き出します。
 しかし、その日はなかなか完了の連絡が入りません。チーフパーサーであるSさんが客席を回ると、一人のCAが困り果てた顔でお客様を説得しています。


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 ご夫婦連れの方で、奥様が大きな可愛らしい人形を胸に抱いていて、その人形ごとシートベルトをしてしまっているため、安全確認が出せないでいるのです。いくらお願いしても理解してもらえません。その姿を見て、Sさんはお客様の席まで行き腰を下ろしてお客様と同じ目線で、奥様の目を見ながら次のように言いました。
 「お母様のお子様はおとなりの空席に座らせてあげましょう。そしてお子様にもシ-トベルトをかけてあげましょう。」とその言葉を聞いた奥さんは「わかりました」と素直に隣の席に人形を置きました。
 こうして人形にもお母様にもシートベルトを着用していただき、飛行機は無事離陸することが出来ました。


 後日、航空会社に人形を抱いていた奥さんのご主人から丁寧なお礼状が届きました。
手紙には「妻は子供を亡くし、それ以来、あの人形を片時も離さなくなり、どこに行くにも、肌身離さず持って行っているのです。飛行機に搭乗した日、あなたに『お人形』ではなく、『お子様』と言っていただいたことが妻は嬉しかったようです。本当にありがとうございました」と書かれていました。
 「お子様」という一言がお客様の心を動かしたのです。


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 CAのSさんが「お子様にもシートベルトをかけてあげましょう」と言ったのは、ちょっとした機転だと思います。複雑な事情があるとは考えが及ばなかったものの、人形を強く抱きしめている奥様のただならぬ様子から、Sさんは何か「強い思い」を感じ取ったのではないでしょうか。
 よく、自分から見てつまらないことに意地を張る人を見かけます。でもそのことは本人にとっては、「つまらないこと」ではなくて、やむにやまれぬ何らかの事情から意地を張っているのかも知れません。
 人は誰にでも、他人にはうかがい知ることができない深い事情があるものです。その事情がわからなくても、その人の意地を許容してあげる心の広さを持ちたいものです。


 相手の心に寄り添うことで、かたくなな心を開くことができるかもしれません。Sさんのとっさの落ち着いた行動をまねることは、多くの人にとっては難しいことですが、ただ規則を主張するだけでは、問題解決はさらに難しくなるように感じます。


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 TDL(東京ディズニーランド)のオープン間もない頃の話です。熟年夫婦がレストランで夫婦二人の食事のほかに、お子様ランチを一緒に注文しました。従業員は不思議に思いましたがチーフと相談して、子供用のテーブルと椅子を用意して、お子様ランチを提供しました。ご夫婦はTDL側の配慮に涙ぐんで感謝の気持ちを表わしました。3人で来たかったTDLでしたが、夫婦の宝である子供さんを亡くされて、約束の旅行に連れてくることが叶わず、写真での淋しく悲しい旅だったのです。
 レストラン従業員の温かい配慮があり、子供さんと一緒の思い出多い旅行になったと後日お礼状が届いたとのことです。


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 ところで、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館」の総合部門で35年連続第一を獲得しているのが石川県和倉温泉の「加賀屋」です。従業員を大切にする会社としても知られています。従業員教育も徹底しており、客室係はお客様の到着時の行動から、旅行の目的を察知して、それにふさわしい対応をとっさに取ることで顧客に感動を与えています。
 記念の旅行には、特別の一膳を用意します。また、家族の思い出の旅行であると知ると、参加できなかった故人のために「陰膳」を準備してお客様を感動させています。


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 今「顧客満足」は当たり前であり、「琴線に触れる対応」を実践することで「顧客感動」をもたらすことが重要です。
 「もの」の価値の行き着く場所は「価格競争」になりがちです。「もの」を「こと」に変えて取り組むことが、「価格」を超えた「感動」を生みます。「こと」に必要な要素は、人の心であり、ホスピタリティの原点です。


 最後に、観光客の地域・施設の最終的評価は、そこに住み、働く「人」です。一度訪れた観光客が、「友人に鹿児島の魅力を紹介したい」、「あの従業員のいるホテルにまた泊まりたい」等と認識していただくよう、「おもてなしの心」を定着させたいものです。
参考:夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語 西沢泰生



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秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども
風の音にぞ おどろかれぬる

         藤原敏行 ~古今和歌集~


No.428 旅行は日本を元気にする~被災地に人が行くことよりも、人が行かなくなることが問題~

2016年9月20日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


               古  城 作詞:高橋掬太郎 作曲:細川潤一

松風騒ぐ丘の上 古城よ独り何偲ぶ
栄華の夢を胸に追い
ああ仰げば侘し 天守閣
崩れしままの石垣に 哀れを誘う病葉や
矢弾のあとの ここかしこ
ああ往古を語る大手門
甍は青く苔むして 古城よ独り何偲ぶ
たたずみおれば 身にしみて
ああ空行く 雁の声悲し


 熊本大震災から5ヵ月が過ぎ、被災地は復興に向けて動き出しています。熊本県のシンボルである熊本城は城全体の倒壊は免れたものの、大きな被害を受けました。国の支援を受けて元の美しい姿に再建したいものです。
 熊本城の再建工事の見学ツアーも公開されています。「古城」の歌の「主人公」のモデルは、上杉謙信と言われていますが、確証はありません。歴史を感じる重みのある歌ですが、作詞者、作曲者の手を離れると、曲の魅力はそれぞれ人の想いにゆだねましょう。


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 ところで、里山の木々の葉も少しずつ色付き始め、柿の実も熟してきました。鹿児島の秋の代表的な作物であるサツマイモも、焼酎の原料として出荷が始まっています。
 秋の観光シーズンを迎え、鹿児島空港や鹿児島中央駅では観光客の姿が多くみられます。夏休みはファミリー層が中心でしたが、秋は熟年にとって代わります。


 この世代は子育ても一段落し、家事や仕事といった日々の暮らしにも余裕が生まれ、第2の人生を楽しみたいという願望を持つ人が増えてきます。
 高度成長期の忙しい経済・労働環境の中で、家族を支えがんばってきた人たちであり、これから「旅行を楽しむ」ことも一つの選択肢ではないかと思います。


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 国民生活の中で旅行のニーズは高く、特に「家族旅行」を楽しみたいという層が増えており、その中でも特に「夫婦二人で」と言う人が多くいます。
 「夫婦の旅」をしたい理由として、「リラックス・ゆったりする旅ができる」、「結婚記念日、ハネムーンの場所をもう一度訪ねたい」、「妻への感謝と絆を確かめる」などをあげています。


 性・年代別で見てみると、特に男性は50代以上になると急激に「夫婦二人で」旅をしたいという気持ちが高まるようです。20代~40代では男女の差はありませんが、50代以上では、男性に比べると女性は「夫婦二人で」旅をしたいという人は少なくなります。


 女性は旅行中のショッピングや食事に関心が高いことから、妻の言い分を十分理解してあげることが、旅の大切なポイントではないかと思います。そのことでご夫婦旅行の回数も増えることにもなるのです。


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秋の観光の目玉は紅葉ですが、日本列島は10月の北海道から12月の九州まで、3ヵ月間楽しむことができます。紅葉の名所と言えば摩周湖周辺、十和田湖、八幡平、日 光、高尾山、黒部峡谷、香嵐渓、京都、宮島、寒霞渓、耶馬溪、秋月城址、曾木の滝公園などです。
 外国人が秋の京都に心を躍らせるのは、歴史ある建造物の中に木々や池が巧みに配置され、朝夕掃き清められた庭園や紅葉のコントラストが特に美しいことがあるのではないでしょうか。 


 また地方を走る観光列車で巡る旅も日本の秋を堪能できます。田んぼには、たわわに実った稲穂が垂れ、一面黄色じゅうたんを敷き詰めたように、美しい光景を作りだしています。渓谷沿いの木々も赤や黄色に紅葉し、青い川の流れに映しだされる光景は、まさに日本の原風景を表しています。インバウンドが好調なのは、「日本食」、「おもてなしの心」等に加えて、日本の四季の美しさに魅了されるからではないでしょうか。


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 鹿児島県は南北600キロに及ぶ広い県で、28の有人離島があり多彩な観光資源に恵まれています。
 日本第2位の泉源を誇り、多様な温泉があります。また、「世界自然遺産」と「世界文化遺産」の2つの世界遺産を持つ唯一の県です。


 本格的な人口減少時代を迎え、インバウンドの拡大や新たな需要開拓が求められます。 今まであまり知られていない地域資源にストーリー性を加えて商品化することや、外国人に日本の伝統文化を提供し、体験していただく取組が求められます。


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 出水市の「着物で散策が話題の武家屋敷」や「1万羽を超す世界一のツル」、さつま川内市の「奇岩・断崖絶壁の島甑島」、伊佐市の「東洋のナイヤガラと呼ばれる曾木の滝公園」、日置市の「薩摩焼のふるさと美山」、姶良市の「日本一の大クスのある蒲生八幡神社」です。


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 大隅地域では「垂水市の夫婦が30年がかりで育てた千本イチョウ園」、鹿屋市の「由緒ある皇室の御陵である吾平山上稜」、南大隅町の「神秘な美しさを誇る雄川の滝」、「整備が進む佐多岬」等です。
 指宿市の「口コミサイトで人気のたまて箱温泉」、南九州市の「ユニークな参拝スタイルが話題の窯蓋神社」、「生態が面白いタツノオトシゴハウス」、南さつま市の「遣唐使が船出し、鑑真上陸の地坊津」「郷中教育の原点である『いろは歌』で有名な竹田神社」等です。
 県民が訪れてSNS等でPRしていただきたい。


 「はやとの風」、「いぶすきのたまて箱」、「おれんじ食堂、おれんじカフェ」等の観光列車も熟年層を引き付けます。全国的にはまだ認知度が低く、著名な観光地・宿泊地と連携することで新たな誘客につながります。


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 また離島は鹿児島の売りの一つです、奄美大島や加計呂麻島、与論島には、他県に負けない美しいエメラルドグリーンのビーチがあります。ゆったりと滞在でき、「一つ上の」「ちょっと贅沢な」「上質な」旅行はいかがですか。


 一方では、体験できる価値ある情報の発信が欠かせません。薩摩焼やガラス工房、屋久杉工芸店で、おそろいの皿やグラスづくり、木製品作りの体験も興味をそそるのではないでしょうか。


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 秋は味覚の秋と呼ばれ、各地の旬の食材も豊富となり、旅の楽しみが増えます。
「黒豚」、「黒牛」、「黒さつま鶏」、「焼酎の黒」、「黒糖焼酎」等は、かごしまがイニシアティブを発揮できる食材であり、もっとキラーコンテンツとして魅力を高めねばなりません。
 特に大都市圏でのさらなる認知度アップの取組が重要です。有楽町の「アンテナショップ」からの情報発信が不可欠です。


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 日本人の国内旅行は成熟し、今後大きな成長は期待できませんが、その中でも比較的ゆ とりのある熟年層はまだまだ開拓の余地があります。
 今回の「九州ふっこう割」の申込者は、この層が一番多くなっています。


 平成23年3月には東日本大震災、平成28年4月には熊本地震が発生しました。
 被災地では多くの市民が被害にあったことから、日本人の心に一番大切なのは家族や夫婦の絆が大切であるということが改めて認識されました。
 日本は地理的に自然災害が発生しやすい国ですが、災害が発生するたびに被災地域への旅行自粛という現象が起こります。
日本人の心配りと言うか、ある意味では憐みの感情が先に立つように感じます。


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 しかし被災地に人が行くことよりも、人が行かなくなることの方が深刻です。
「九州ふっこう割」が導入され、九州各地は観光客の動きが活発になっています。これからが秋の観光シーズン本番です。多くの観光客が訪れることで経済効果が生まれ、地域は活性化します。是非皆さんも旅行に出かけましょう。「九州ふっこう割」は12月まで続きます。


 最後に機内で下記のナレーションを聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。
身震いするほどの感動を覚える美しい日本語の文章です。空の上でも夜の底が美しく感じられます。


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遠い地平線が消えて、深々とした夜の闇に心を休める時、はるか雲海の上を音もなく流れ去る気流は、たゆみない宇宙の営みを告げています。
満天の星をいただく、はてしない光の海を豊かに流れゆく風に心を開けば、きらめく星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂の、なんと饒舌なことでしょうか。
光と影の境に消えていった、はるかな地平線も瞼に浮かんでまいります。・・・・・・・・
                  ~「ジェット・ストリーム」のナレーションから~


No.427 NHK大河ドラマの放映が決定~県民一体となって万全の受入態勢を整えよう~

2016年9月12日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


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 鹿児島県は、南北約600キロメートルに及ぶ広大な県土の中に、美しい豊かな自然や良好な景観、良質で豊富な温泉、個性ある歴史・文化、伝統工芸、豊かな美味しい食の魅力など、多彩で優れた観光資源に恵まれています。九州新幹線全線開業、海外航空路線の増加など交通体系が整備されつつある中で、観光振興による経済への波及効果は大きいものがあります。
 県では、市町村、観光関係事業者、観光関係団体が一体となり「観光立県かごしま」を目指し、様々な取組を進めてきました。
 豊富な観光資源を活かすべく、イベントの開催や誘客キャンペーン等を推進してきています。
 一方では、台風、桜島や新燃岳の噴火、地震、水害など常に自然災害と背中合わせであり、厳しい環境に置かれているのも事実です。


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 このような中、NHK大河ドラマは1年間放映されることで、地域の魅力が発信され観光への波及効果は絶大であり、平成2年の「翔ぶが如く」では鹿児島県を訪れた県外観光客は過去最高になりました。
 しかし、放映以後バブル景気の崩壊等もあり、県外観光客の入込みは低迷を続けていました。
 平成13年の夏の鹿児島県観光誘致促進協議会(誘致協)の会合の席で、もう一度鹿児島を舞台とした大河ドラマを誘致し、観光客の復活を目指そうという活動がスタートしました。


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 これまでの大河ドラマに関する誘致活動に触れたいと思います。
 誘致活動の目的は、「鹿児島を舞台としたドラマ」の制作を実現し、その放映効果を活かし、鹿児島の魅力を全国に向け情報発信し、イメージアップを図るとともに地域の発展に努めることでした。
 平成13年9月、まず県、鹿児島市、県観光連盟、鹿児島商工会議所、誘致協の5団体合同で「大河ドラマ」制作についてNHKへ最初の陳情を行いました。
 その後、誘致に当たっては県民あげての要望であるということが重要と考え、官民一体となった組織が設立されました。
 平成15年12月には、県内外で集めた345,530名の署名と一緒に「NHK大河ドラマ」要請書をNHK側に提出しました。
 毎年要請活動を続け、くしくも平成18年8月に、平成20年の大河ドラマは「篤姫」と発表され、県民あげて喜びに沸きました。


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 現在NHKの大河ドラマ「真田丸」は、35話(9/4)が終了した時点で平均視聴率は、17.21%となっています。「篤姫」は年間視聴率が24.5%であり、「篤姫」の視聴率の高さが際立っています。
 従来から、西郷隆盛と大久保利通が鹿児島での歴史観光の中心でしたが、今は小松帯刀と篤姫のゆかりの地を訪ねる人も多くなっています。
 一方、篤姫人気を支えた要因は、女性の支持があったからであり、鹿児島の魅力が、女 性たちに旅行に行ってみたい地域になるきっかけにもなりました。観光地はやはり女性に支持されることが大切です。


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 篤姫の放映効果は県内の随所に表れました。指宿市今和泉地区など県下各地にボランティアガイドが誕生し、現在県内では43団体、995名が活躍しています。
 鹿児島市では、まち歩きルートの選定と観光ボランテイアガイドの育成が進み、「維新ふるさと館」周辺の整備や「鹿児島まち歩き観光ステーション」の設置も篤姫効果の一つです。
 指宿のボランティアガイド協会は番組終了後解散の予定でしたが、今では、駅での出迎えやホテルへの出前ガイドも行うなど活動の領域が広がっています。
 地域全体で観光客を温かく迎える態勢ができたことは、地域づくりの大きな指針となっています。
 また、県民が鹿児島の歴史に興味を持つきっかけとなり、地域資源の売り出し方に、ストーリー性を語ることの大切さを教えてくれました。


 九州経済研究所(旧鹿児島経済研究所)は、平成20年10月に「篤姫」放映効果が、観光施設の集客や、土産品代、宿泊費など関連産業への波及分を含めて262億円と試算し、公表しました。大河ドラマの放映効果がいかに大きいかが如実に表われています。


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 九州新幹線が全線開業して博多駅~鹿児島中央駅間が1時間17分となり、また、2つの世界遺産を持つ唯一の県の知名度を活かし、県全域に観光客を広げることが課題となっています。
 「篤姫」終了後も、次の大河ドラマの実現に向けて、県、市、県議会、観光連盟、鹿児島商工会議所を始め経済界5団体、青年会議所、誘致協等12団体が一体となり「大河ドラマを誘致する会」を結成して、誘致活動を進めてきました。
 この度、平成30年の大河ドラマは西郷隆盛が主人公の「西郷どん」(せごどん)に決定という一報を受けて、長年の苦労が実ったと関係者一同歓喜の声が上がりました。


 西郷隆盛が活躍した時代は、江戸時代末期から明治維新誕生前後で、近代国家建設がスタートする時期です。将来への不安感がぬぐえない現在の世相ですが、平成30年は明治維新150年という節目の年であり、ドラマを通して新しい国づくりへの展望が開かれることを期待したい。特に明治維新は鹿児島にとって、他県よりプライオリティーが発揮できる年にしなければなりません。


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 日本近代化の礎になったものは、島津斉彬候の先見性、教育、人材育成と登用、地理的ハンディを乗り越えた改革へのエネルギーにあったのではないでしょうか。また、西郷隆盛は、歴史上人気のある人物の一人です。「敬天愛人」、「子孫に美田を残さず」等に代表される彼の生き方には、学ぶことが多いのではないでしょうか。また、西郷隆盛は、奄美大島、徳之島、沖永良部島での生活を余儀なくされていますが、その足跡を辿ることで奄美群島をPRするチャンスにもなります。「奄美・琉球」が世界自然遺産に登録されると弾みがつくと思います。黒糖焼酎や鶏飯等ブランド化も進めなければなりません。


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 また、明治維新誕生には多くの薩摩の偉人たちが活躍しました。その足跡を学ぶ意義は大きく、熊本地震の影響で減少している教育旅行回復への好材料にしなければなりません。
 昨年7月に世界文化遺産に登録された旧集成館事業など「明治日本の産業革命遺産」が日本の近代化に果たした役割を再認識させる機会にもしなければなりません。


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 最後に、大河ドラマは1年間放映される国家的プロジェクトであり、いかにして鹿児島のイメージアップと誘客に結び付けていくか真価が問われます。
 日本の人口が減少していく中で、地域への交流人口の拡大は不可欠であり、大河ドラマの放映を機に鹿児島の新たな魅力を創り上げたいものです。
 大河ドラマの放映決定を受けて、「篤姫」の時と同様に、2年後に向け官民一体となった番組制作等への協力態勢を構築していきましょう。



           旅人の 袖吹きかえす 秋風に

           夕日さびしき 山のかけはし

                 藤原定家 ~新古今和歌集~


No.426 Iターン者の発想が地域を変える~頴娃地域の活性化に頑張る人たちにエールを送る~

2016年9月5日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


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 県が進める「魅力ある観光地づくり事業」は各地域の魅力創出に役立っています。今、地域資源にストーリー性を加えて旅行商品化し、エージェント等とタイアップして誘客を図っているのが、南九州市頴娃地域です。従来からお茶の産地として知られ、天下の絶景番所鼻公園、目の前には雄大な東シナ海を望む大野岳がそびえ、日本の原風景がいたるところに残っています。


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 まず、パワースポットとして人気が高まり、多くの参拝客が訪れているのが釜蓋神社です。海に突き出た朱塗りの神社の両岸は、白波が押し寄せ旅情をかきたてます。
 頭の上に釜蓋を乗せて鳥居から賽銭箱までの約10mを歩ききったら願いが叶うというユニークな願掛けが人気となり、また、勝負・武の神が祀られていることから、大会前にはスポーツ選手も多く参拝しています。


 この神社が有名になったのは、テレビ番組の「ナニコレ珍百景」で紹介されたのが始まりです。その後ロンドンオリンピックで準優勝した女子サッカーチーム「なでしこジャパン」の選手が、大会前にこの神社に参拝していたことがスポーツ紙で報道され、一気にその人気に火が付きました。


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 今では、プロサッカー選手や、県内外のスポーツ団体の参拝がたえません。また、多くの旅行エージェントの企画にも取り上げられています。
 7~8年前まではほとんど無名に近かった釜蓋神社が、多くの参拝客を呼ぶようになったのは、珍しい参拝スタイルとともに、神社のストーリー性が面白くメディアで取り上げられたことが大きいと思います。行ってみたくなる演出が求められます。


 アクセスに恵まれているとは言えない島根県の出雲大社が、パワースポットとして人気があり続けているのは「縁結び」というキーワードです。
 情報発信の在り方が重要になっています。


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 また、釜蓋神社から10分の所にある「タツノオトシゴハウス」も人気の施設です。
 この施設は日本で唯一のタツノオトシゴ専門養殖場です。映像を通しての出産シーンや、生簀の中で生き生きと動き回るタツノオトシゴの生態を詳しく説明してくれます。若いカップルや熟年の女性グループが多く、経営者の加藤紳さんのユーモアあふれる説明に笑い声が絶えません。
 竜の容貌を持ち、夫婦仲がよく、オスが子供を身ごもるという珍しい生物で、そのことが観光客の話題となり、「タツ年」の2012年頃から観光客の目に留まり、最近では車のCMにも取り上げられ、新たな需要開拓につながっています。


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 また、近くにある番所鼻自然公園も見所の一つです。「薩摩富士」と呼ばれる開聞岳から登る日の出は特にすばらしく、都会人には特に感動を与えます。
 江戸時代に日本各地を歩いて測量し日本地図を作った伊能忠敬が、『けだし 天下の絶景なり』と、日本一の絶景として称賛した場所で石碑も建てられています。海を見下ろす公園にある「幸福の鐘(吉鐘)」は、下にはタツノオトシゴをモチーフにしたハート型のかわいいオブジェが作られ、ここからの景観も絶景です。
 ストーリー性が魅力的に形作られており、思わずカメラに納めたくなります。
 松林に囲まれた「いせえび荘」で、開聞岳の雄姿を眺めながら食べる「いせえび料理」も格別です。ぜひお訪ねください。


 360度のパノラマが広がる標高466mの大野岳も見ごたえがあります。
 展望台まで続く108段の「茶寿階段」を登ると、「還暦」や「喜寿」、「米寿」などの記載があり、楽しみながら登れる場所です。東シナ海、桜島、佐多岬を一望でき、空気が澄んでいると遠くに屋久島、硫黄島を望み、四季折々の眺望が楽しめます。


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 ところで、従来この地域は知覧や指宿、坊津への通過場所に過ぎず、番所鼻に食事に来る人ぐらいしか目だった観光客はいませんでした。
 頴娃の活性化には魅力ある地域づくりが重要と考え、業種や、官民の枠を超えた組織が結成され、地域一体での魅力発信に取組んでいるのが、「NPO法人頴娃おこそ会」です。地域の若者から年配者まで定期的に会合を開き、地域づくりの勉強会や先進地視察を行っています。農村風景を大事にし、地域の特産品、海の生物、茶畑や開聞岳の景観、地域の人々の日々の暮らしをうまく取り込み、融合させて訪れる人々を感動させる仕掛けづくり・地域づくりを実践しています。
 Iターン者の加藤潤さんは、タツノオトシゴハウス経営者の兄であり、地域の中心メンバーの一人として活動しています。


 特に、頴娃地域の茶畑は美しく、農道も整備されドライブにも最適であり、途中に美味しいお茶を飲むことができる休憩施設や体験メニューもそろっています。まさにグリーンティリズムの推進には最適の地域です。「茶寿会」のメンバーが茶摘み体験やランチバイキングができる施設を運営し、地域総力戦で魅力発信に努め誘客を図っています。
 宿泊施設が少ない中で、滞留人口を増やすことが地域経済の発展には不可欠です。
 近くにある石垣地域の古民家再生や商店街の魅力づくりも進められています。県民にいかに来てもらうかが当面の課題です。


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 ところで、この地域から30分あまりの場所には坊津があり、遣唐使が船出したところとして知られています。かつて、日本三津とうたわれ、古来仏教文化が伝来して栄え、また中世から続いた交易港として多くの船が出入りしました。 坊津は、酒造メーカーのCMの舞台に、また、風光明媚な「秋目」はショーン・コネリー、浜美枝が共演した「007は二度死ぬ」のロケ地になり、鑑真和上上陸記念碑近くに「007撮影記念碑」が建立されています。往年の映画ファンには訪ねてみたい地域です。
 ゆっくりと歩きながらいにしえ人の行き交った石畳や、石垣が残る路地、蔵屋敷等を巡るのも坊津の魅力です。 


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 番所鼻一帯は、鹿児島市から知覧、指宿からのルートに加え、坊津に出かける人の休憩地点としての位置づけができます。観光客に境界はなく、知名度の高い地域とも連携し、ルート上立ち寄りたくなる地域としての更なるブラッシュアップが求められます。



 最後に、地域づくりには「よそ者、若者、ばか者」の発想が重要です。加藤さんのような都会で育った「よそ者」の視点での地域活性化が、今求められているのではないでしょうか。



          涼風の 曲がりくねって 来たりけり

                           ~小林一茶~

No.425 「第9回かごしま観光人材育成塾」の開催について~明治維新150周年を鹿児島の魅力発信の機会に~

2016年8月29日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光


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 甲子園球場での高校生の熱い戦いも終わり、朝夕の涼しさに秋が近いことを感じます。
 えびの高原はススキの穂が色づき始め、出水市の上場高原のコスモスも後1カ月で花を咲かせるのではないでしょうか。
 熊本地震で大きな影響を受けた鹿児島の観光ですが、九州新幹線が通常ダイヤに戻り、利用客の動きも活発になってきました。「九州ふっこう割」や高速道路が安く利用できる「九州観光周遊ドライブパス」の導入もあり、これから九州各地の観光地は賑わいを見せるものと期待が高まります。


 鹿児島市内の「とんかつ」や「ラーメン」の専門店の前には、ガイドブックを持った若者たちが列をなしています。やはり街に観光客の姿があれば、活気が感じられます。
 9月に入ると、筑紫地区連合中学校の修学旅行が始まります。震災対策で市内の「維新ふるさと館」、「いおワールドかごしま水族館」、「平川動物公園」、「黎明館」が無料となり、自由散策で多くの生徒が入場してくれることを期待しています。


 ところで、九州新幹線全線開業から5年が経過して、新幹線は県民にも定着してきています。鹿児島にとって新幹線は大動脈であり、これからも持続的に誘客を図ることが問われています。2年後の2018年は明治維新150周年になります。
 鹿児島県にとって明治維新150周年は、他県よりプライオリティを発揮できる年にしなければなりません。


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 ところで、これから鹿児島が観光客誘致をいかに進めるか、取り巻く環境や課題について理解を深めるべく、観光アカデミー事業の一環として、「第9回かごしま観光人材育成塾」を開催します。
 地域づくりや情報発信の手法、世界文化遺産や明治維新150周年に向けての鹿児島の課題、先進地の取組を学ぶことで誘客に繋げる手法が学べるのではないでしょうか。


 講師と講座の内容について簡単に紹介します。

 第1講座は、県観光交流局の米盛観光課長が、「観光かごしまの現状」について講演します。県が取組んでいる事業の現況や今後の課題等についての講座です。熊本地震対策や4年後の東京オリンピック、国体の開催をにらんだ観光戦略の一端が語られるのではと楽しみです。


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 第2講座は、株式会社 トラベルジップ代表取締役 大泉敏郎氏です。現在、本県の観光サイト「本物。の旅かごしま」について、ご指導いただいているのが大泉氏です。大泉氏の指導・助言によりホームページへのアクセス回数は飛躍的に伸びています。
 今回は、「観光収入を増やす工夫と新規客&リピート客のバランス」について情報発信、また見たくなるホームページのあり方等について、革新的な提案がなされるものと思います。各自治体で広報や観光宣伝を担っている人には最適な講座と思います。


 第3講座は、沖縄観光コンベンションビューローの目島部長の「沖縄観光の実情や国内観光客の誘客・受入について」先進地としての革新的な取り組みが語られると思います。
 2018年度には「奄美・琉球」として世界自然遺産登録を両県で目指しています。両県の連携強化も求められています。


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 第4講座は、県の世界文化遺産総括監の田中完氏が「明治日本の産業革命遺産」の魅力について語ります。登録から1年が経過しましたが、県民にその価値が十分浸透しているとは言えません。観光客誘致にいかに取り組むか、課題について学びたいと思います。


 第5講座は、オフィスフィールドノート代表砂田光紀氏が「明治維新150周年に向けて鹿児島をどうデザインしていくか」と題して講義します。砂田氏は、いちき串木野市の「薩摩藩英国留学生記念館」を総合プロデュースされ、入館者数はすでに10万人を突破しています。明治維新150周年に向けて、夢のある楽しい話が語られるのではないでしょうか。


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 第6講座は、昨年の大河ドラマの舞台である萩市から萩市観光協会の岡本専務をお迎えして先進地の取組を語ってもらいます。今、「薩長土肥」連合で明治維新150年に向けて、共同宣伝や相互誘客を進めています。「花燃ゆ」の放映を機会に山口県には多くの観光客が訪れており、誘致の秘策が語られるものと思います。


 第7講座は、維新ふるさと館の特別顧問である福田賢治氏による「維新期の人材育成」についての講義です。薩摩の郷中教育やなぜ多くの偉人が育ったのか、興味ある話が聞けるのではないでしょうか。


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 第8講座は、鹿児島県漁業協同組合連合会の代表理事専務の宮内和一郎氏が「"いお・かごしま"魚食普及拡大推進の取組について」と題して、鹿児島の魚の魅力や消費拡大について、観光の視点から参考になる講義がなされるものと思います。


 人材育成塾の講師の方々は豊富な経験を持ち、それに裏打ちされた講義は、皆さんの活動に必ず役立つものと信じます。また、夜学塾は、参加者同志や講師陣とのコミニユケーションの場であり、講座で聞けないより具体的な話が聞けると思います。


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 地域づくり・観光地づくりには、まず人材の育成が重要と考えています。今まで人材育成塾を受講した方の多くが、地域活性化に努力していることは、鹿児島の観光にとって大きな財産となっています。
 地域資源を磨きストーリーを加えて旅行商品化し、どのような手段で情報を発信し、誘客に繋げることができるかが今問われています。
 全国的にDMO(Destination Marketing/Management Organization)設立の動きが活発になってきました。地方創生を担う人材が育って欲しいと願っています。


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 海外航空路線が増便され外国人が急増し、また、クルーズ船も過去最高となり急がれる受入態勢等の整備、熊本地震の影響で他方面に移った修学旅行の再誘致等、転換期を迎えている鹿児島の観光です。この講座が人材育成とさらなる地域活性化につながることを期待し、多くのことを学ぶ機会になることを期待します。



           親は子を 育ててきたと 言うけれど
           勝手に赤い畑のトマト

                        ~俵万智~


プロフィール

奈良迫プロデューサー
鹿児島県
観光プロデューサー
奈良迫 英光
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