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No.372 「域内旅行」の薦め~夏休みは子ども達に県内の魅力に触れる機会を~

2015年8月3日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 猛暑が続く日本列島ですが、甲子園球場では、まもなく全国高等学校野球選手権大会が始まり、郷土代表への熱心な応援が繰り広げられます。夏休みも佳境に入り、家族旅行等を準備されている方も多いと思います。海や山に出かけ自然の魅力に触れていただきたい。

 下記の唱歌は、作者が初夏の頃訪ねた尾瀬の情景を想い出し、詩に託したもので、美しい花の群生と涼しさが伝わってきます。

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 昭和24年6月13日にNHKのラジオ番組で放送されると、多くの日本人の心を捕え、その後曲に歌われている尾瀬の人気は飛躍的に高まっていきました。小生も東京に住んでいたころ、5月末から6月にかけてのミズバショウが咲く頃よく訪ねました。

 雪解けの湖沼に白い花を付けたミズバショウの可憐な花が、尾瀬沼の北部にそびえる2356mの燧ヶ岳(ひうちがたけ)の姿と対比して、美しい情景を醸し出しています。遊歩道では色とりどりのリュックを背負った多くのハイカーとすれ違います。

 ミズバショウの花が終わり、7月中旬頃になるとニッコウキスゲの可憐な花の群生が見られることから、夏休みはファミリーの姿が多くなります。 ぜひ一度は訪れたい美しい日本の情景に会える場所です。     

              夏の思い出
   歌:童謡・唱歌    作詞:江間章子    作曲:中田喜直

    夏が来れば思い出す    はるかな尾瀬 とおい空
    きりの中に浮びくる    やさしい影  野の小路
    みず芭蕉の花が咲いている 夢見て咲いている水のほとり
    しゃくなげ色にたそがれる はるかな尾瀬 とおい空

    夏が来れば思い出す    はるかな尾瀬 野の旅よ
    花の中にそよそよと    ゆれゆれる 浮島よ
    みず芭蕉の花が匂っている 夢見て匂っている水のほとり
    まなこつぶればなつかしい はるかな尾瀬 とおい空

白谷雲水峡2.jpg

 県民の皆様、涼を求めて今年は屋久島へ出かけてみませんか。高速船で2時間足らずで行くことができ、登山しなくても涼しさを味わえる場所が多くあります。「もののけ姫」の舞台となった標高600m~1,050mの地にある「白谷雲水峡」は、ヤクスギなどの原生的な森林を鑑賞できます。

 日本の滝100選に選ばれている「大川(おおこ)の滝」、雄大な岩盤を水が下り落ち、飲料メーカーのCM撮影が行われた「千尋(せんぴろ)の滝」、世界自然遺産地域が広がる「西部林道」等涼しいスポットがあなたの心を癒してくれます。「屋久島環境文化村センター」や「屋久島環境文化研修センター」ではエコ学習ができます。

 現在、口永良部島新岳噴火の風評被害等で、屋久島への観光客が低迷しています。口永良部島と屋久島は海を隔てて12km離れており観光には全く支障はありません。口永良部島の島民は、今屋久島で避難生活を送っています。島民にお会いする機会があったらぜひ励ましていただきたい。

 鹿児島県には28の有人離島があり、島ごとに多彩な生活・食文化、伝統的祭り、美しい海岸線など、魅力的な観光地が点在しています。夏休みという期間を利用して家族で離島にも足を延ばしてください。

悠久の森0.jpg

 県本土でも涼を感じる場所が点在しています。大隅半島では「悠久の森」、錦江町の「照葉樹の森」、「花瀬自然公園」があります。また、「鹿屋航空基地史料館」では、日本の防衛や平和の大切さを学ぶことができます。


 霧島温泉は、鹿児島市内より朝・夕の温度が5度程度低く、夏でも過ごしやすい地域で、親子でのトレッキングが人気です。標高700mの高原にある「霧島アートの森」は、有名アーティストの野外作品に触れることで、子ども達の感性を高める機会になるのではないでしょうか。

 ところで、7月5日に、旧集成館(反射炉跡、旧鹿児島紡績所技師館、機械工場)、関吉の疎水溝、寺山炭窯跡の3つの構成資産が、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として、世界文化遺産に登録されました。

 国内で自然遺産と文化遺産の2つの世界遺産を持つ唯一の県となり、県民にとっても大きな誇りです。

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 「関吉の疎水溝」と「寺山炭窯跡」の2か所には、土日と祝祭日にはボランティアガイドが常駐し、案内業務を行っています。1851年にスタートした集成館事業は、「明治日本の産業革命遺産」の先駆けであり、薩摩の先見性と技術力を国内外に示す重要な構成資産です。

 県民が登録遺産を直接見て、歴史的背景を語ることの大切さが問われています。夏休みの学習教材として、「明治日本の産業革命遺産」を勉強していただきたいと願っています。 観光振興にも大いに活用していかねばなりません。

   10月31日から「第30回国民文化祭・かごしま2015」が開催されることから、全国の約30の旅行エージェントが9月から誘客キャンペーンを展開します。世界遺産や各地域の観光資源を活用したお得な商品企画が進められており、秋以降は大いに盛り上がるものと思います。

鹿屋航空基地資料館2.jpg

 噴火活動や長雨による列車の不通期間もあり、6月、7月と観光客は低迷しました。 これからの取組が国民文化祭の認知度を高め、その後の観光客増という成果となって表われます。県民の皆様も夏休みを利用し、身近にある観光資源を家族で訪ねて、郷土の良さを知る機会にしていただきたい。

 県民自らがPRしていただくことが何よりも求められているのではないでしょうか。

参考:夏の思い出:Wikipedia

No.371 中間幹夫氏の(株)全旅の社長就任を祝す~5500の会員各社に鹿児島をPRするチャンスに~

2015年7月27日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 梅雨明けが遅れましたが、夏休みに入り国民の大移動が始まりました。家族旅行や海外旅行の手配、イベントの集客、高校野球の選手・応援団の輸送、外国人の受入、地域への誘客等旅行会社の役割も多岐にわたっています。

一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)ロゴ.jpg

 日本には1万社に近い旅行会社があり、観光庁長官登録が必要な第1種旅行業と、本社所在地の都道府県知事の登録が必要な第2種旅行業、第3種旅行業があります。業界の団体組織としては、一般社団法人日本旅行業協会(JATA)と一般社団法人全国旅行業協会(ANTA)があります。

 JATAは、正会員1127社と協力会員446社、賛助会員93社、在外賛助会員や旅行業に密接な関係のある者517社が加入し、全国8支部が設けられており比較的全国的に営業を展開しているのが特徴です。(2015年7月10日現在)

 一方、ANTAは、全国47の都道府県に支部を置き、日本全国5500社を超える会員により、地域に密着した営業をしているのが特徴です。

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 この度ANTAの事務受託会社である(株)全旅の代表取締役社長に、鹿児島県の中間幹夫氏が就任しました。(株)全旅は、会員の取引先である宿泊、観光施設、キャリア等の保証会社としての役割も担い、クーポン決裁事業や各種旅行商品、電子クーポン等を取り扱っています。2014年度は、取扱額、利益とも過去最高の実績を達成しています。

 ANTAの各社が企画造成しているのが、着地型旅行「地旅」と呼ばれるもので次の特徴があります。
①「テーマや目的」が明確で、生活文化など地域資源を活かした旅行商品が多い。
②地域住民、各種団体(自治体、観光協会、NPO法人)等と協力し企画造成している。
③地元の食材や伝統工芸、祭り、イベント等を活用し地域振興に貢献している。
④地元との交流や体験、地域ならではの生活・文化などの魅力を語り、伝えるための観 光素材(ボランティアガイドの確保)などが含まれている。
日頃から地元と密着している会社ならではの商品が特徴です。

 ANTAでは、毎年「国内旅行活性化フォーラム」を開催し、地元の観光素材を生かしたさまざまなモデルプランを造成し、旅行需要の拡大を図っています。

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 ANTA主催の国内観光フォーラムと全旅主催の「第2回地旅博覧会inかごしま」が2016年3月16日~19日までの4日間、鹿児島での開催が決まり、2万人余りの参加者が予定されています。参加者の宿泊先を分散させることで、「市町村と地元ANTAがアイディアを出す機会」にしたいと中間会長は、力強く語っています。

 記念講演は、2010年4月5日に「スペースシャトル ディスカバリー」に搭乗し、宇宙に滞在した山崎直子氏です。県内には日本で唯一の宇宙基地が2箇所あり、多くの会員が見学に訪れるのではないでしょうか。

 日本の国内旅行は、大手エージェントによる「発地型団体旅行」を中心に拡大してきましたが、地域主導・地域密着による「着地型旅行」も人気を博しています。

 大手旅行社が、積極的には取り組んでいない地方の生活・文化等を商品化しているのがANTAの会員であり、地域を熟知している住民や観光協会、NPO法人、自治体職員等と共同で、創意工夫に満ちた新規な商品も造成しています。

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 ところで、鹿児島県内に宿泊するお客様の70%が個人旅行となっており、宿泊した翌日にどのような行程で地域を巡るかが課題です。その際、周辺を半日でも観光できるメニューがあれば、地域の魅力に触れる機会にもなりリピーターに繋がります。

 そこで、地域の人々との触れ合いや地元食材を十分に活用したレストラン等が組み込まれた商品企画が必要になるのです。ANTA会員の情報収集力が求められるのです。

一方、著名な観光地が少なく、大きな宿泊施設を持たない地域では、マニアックな旅が好きな客を対象に、様々な情報手段を活用し、地域の魅力を届けることが重要となっています。

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 集落の伝統的祭り、1年に1回しか公開されない神社・仏閣の宝蔵品、域内でしか流通してない旬の食材、珍しい植物、めったに見ることができない自然現象等地域資源を点検し、誘客に繋げる手段が必要です。


 鹿児島県旅行業協同組合は、従来から中間氏を中心に積極的に事業展開をしています。今、「魅旅」という着地型商品を開発し、大手エージェントにも販売ルートを開拓しています。最近では、バリアフリーツアーや過疎地域に特化したツアーなど社会貢献や地域経済の活性化等積極的に取り組んでいます。

 鹿児島県は南北600kmに及び、県下全域に観光客を広げることが大きな課題であり、そのことが経済波及効果をもたらすことになります。

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 「魅旅」では、「第30回国民文化祭・かごしま2015」の参加者に地域の魅力も知ってもらうために、地域発のツアーが商品化されており、鹿児島を訪れる皆さんに新たな感動を与えるのではないでしょうか。


 中間会長のもと、地元の会員が全国のANTA会員に鹿児島の地域の魅力を発信し、地域の活性化に努力されることをご期待申し上げます。

 最後に、昭和40年代頃までは、夜になると蚊に刺されないように多くの家庭で蚊帳を釣って寝ていました。家族全員が雑魚寝して寝ていた頃が懐かしく思い出されます。

  垂乳根(たらちね)の 母が釣りたる 青蚊帳を
                すがしといねつ たるみたれども
                            ~長塚節~

No.370 「人の語り」が感動をもたらす~心からのおもてなしの気持ちを伝えるために~

2015年7月21日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 7月5日に、旧集成館(反射炉跡、旧鹿児島紡績所技師館、機械工場)、関吉の疎水溝、寺山炭窯跡の3つの構成資産が、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として、世界文化遺産に登録されました。

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 国内では2つの世界遺産を持つ唯一の県となり、県民にとっても大きな誇りです。県民とともに喜び、観光振興にも大いに活用していかねばなりません。翌日から訪問者が増加しており、「関吉の疎水溝」と「寺山炭窯跡」の2か所には、11日から土日と祝祭日には新たにボランティアガイドが常駐し、案内業務がスタートしました。

 今回の世界文化遺産は、各構成資産を一つのストーリーとして分りやすく説明することで、文化財登録の価値が理解しやすくなります。

 今回は「シリアル・ノミネーション」として推薦していることがあげられます。一つ一つでは「顕著で普遍的価値」の要件を満たさない遺産を、同じ歴史一文化群のまとまりとして関連付け、全体で顕著な普遍的価値を有するものとして、世界遺産に推薦したことです。

 複数の遺産がつながっているからこそ、インタープリテーション(解説)が遺産に対する価値を高め、観光客も満足度が高まり「おもてなしの心」も伝わります。

 *今度の産業革命遺産は、ボンの世界遺産委員会で「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼 造船 石炭産業」として登録されました。

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 ところで、観光客だけでなく日頃の応対には「おもてなしの心」が欠かせません。先日、大雨の日に、市内の菓子店で経験したことです。ケーキを買ってレジで精算を済ませ受け取ろうとすると、若い女性の従業員がお持ちしますと外まで運んでくれました。

 私が鞄を持っていたこともあり、傘を開いてくれて、雨に濡れないようにナイロンの袋をかぶせたケーキの箱を渡してくれました。帰る際には、「雨脚が激しいので、足元に気を付けてお帰りください」と声をかけ、一礼してしばらくしてから店の中に入って行きました。店は少し混んでいましたが、雨の日ということもあり特に顧客への配慮を感じました。思いがけない心配りに感動し、またその店で買いたいという心境に駆られました。

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 最近急増しているコンビニエンスストアで経験することです。昼間の空いている時間帯でしたが、ドアが開き入店したことがわかると、奥のほうから「いらっしゃいませ」と大きな声が聞こえてきました。棚に商品を並べていたのでしょうか、顔が見えません。店員はしばらくしてからレジのほうに戻ってきました。

 客が入店したというシグナルが発せられるのに、声だけでは誠意が伝わりません。仕事を中断して、お客様のほうを向き挨拶をするのが誠意ある応対と思います。下を向いて「いらしゃいませ」というだけでは、ただマニュアル通りに作業をしているのであり、仕事をしているとは言えません。従業員教育の基本姿勢を見直しする必要があります。

 コンビニエンスストア業界は、各地域で出店競争が激しくなっていますが、価格や利便性だけでなく「おもてなしの心」等人材教育が、勝ち残りになるのではないでしょうか。

 小生の「プロデユーサーコラム」で、「感動のおもてなし」を実践しているドライバーとしての紹介したこともある指宿ハニ交通の冨山剛招さんから、うれしい連絡がありました。

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 5月の鹿児島県タクシー協会の総会で、優良運転手として表彰されたということです。 冨山ドライバーは、故郷の指宿にUターンして10年になります。観光客を案内する際 には、予定された料金のコースだけでなく、時間を超えても顧客が喜びそうな場所を自ら案内し、スナップを撮っては無料で宿泊先に届け、また、自宅にも写真を送っています。


 お客様からのお礼状はこれまで400通を超え、その「おもてなしの心」はドライバーの鏡です。県タクシー協会と観光連盟が主催する研修会で、3年前に体験談を語ってもらいましたが、お客様にいかに喜んでもらうか、また来たいと思うような接遇を実践し、訪れる人々が喜んでいただけるサービス精神を持ち合わせています。観光地の評価は、まさに「人にあり」ではないでしょうか。

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 今鹿児島の観光は、口良永部島新岳噴火による屋久島への風評被害、長雨や「指宿のたまて箱」の運休等が続き、6月以降の観光客が伸び悩んでいます。県内の観光地は平常通り営業し、観光客への被害も発生していません。積極的なPR活動が必要です。

 「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産の登録も決定し、反転攻勢を駆け夏休み以降の誘客を図らなければなりません。10月31日からは「第30回国民文化祭・かごしま2015」も開催されることから、誘客に向けてツアーの割引や宿泊客への特典等も準備されています。

 「リクルートじゃらん」が実施している県ごとの全体的な評価(観光地の魅力や認知度、食、お土産品、おもてなし等)では、鹿児島県は毎年いつも上位にランクされています。

 世界文化遺産登録をチャンスととらえて「おもてなしの心」を常に忘れず、観光客を温かく迎え、リピーターの創客につなげることが大切です。

  向日葵は 金の油を 身にあびて
                ゆらりと高し 日のちひささよ
                           ~前田夕暮~

  わが夏を あこがれのみが 駆けされり
                麦わら帽子  かぶりて眠る
                           ~寺山修司~

No.369 地域を救うものは何か~観光は地域総力戦で盛り上げよう~

2015年7月13日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

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 長崎で講演の機会があり、世界文化遺産に登録されたばかりの「端島(軍艦島)」を訪ねました。4つの会社がクルーズ船を運航していますが、秋までは予約がほぼ埋まっているという状況です。

 メディアでの放映の機会も多く、しばらくはブームが続くのではないでしょうか。長崎駅には、世界文化遺産の案内所が設置されていました。

 2014年、鹿児島県全体で年間758万人もの宿泊者があり、九州では第2位となっていますが、地区別では約64%が鹿児島市、霧島地区、指宿地区の3地域に集中しており、今後この地域からいかに観光客を広げるかが大きな課題となっています。

 そこで県と観光連盟では「これらの3地域を拠点に、地域資源の再評価と活用を図るため周遊ルートづくり」等3本の施策を展開し、広域観光の推進を図っています。他県に負けない観光資源を持ちながら県民にも意外と知られていない場所も多くあり、新たなルートを設定して誘客につなげる必要に迫られています。

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 観光のトレンドは、団体旅行から個人旅行にシフトしており、県の宿泊機関のデー タでみると7割が個人客となっています。名所旧跡巡り、宴会を主とした狭義の観光から、体験・交流などを通して地域の生活、文化等の魅力に触れる旅へと顧客のニーズは広がっており、安全・安心、本物の提供が観光客の心を捉えます。

 地域では受入態勢の整備が急がれ、大都市圏から地方への流れも進んでくるものと 想定されます。地域づくり・観光地づくりには人の存在が重要であり、県内の地域資源を旅行商品化し、そして地域全体をパッケージ化、また、プロモーションするという組織力が問われています。

 九州新幹線全線開業を契機に市町村においては、観光関連部署の人員増等で機能を強化し、他の自治体と一緒になって地域のPR活動に取り組んだり、県の福岡、大阪、東京事務所に職員を派遣して営業強化に努めているところもあります。観光協会においては、部外から新たな人材を登用するなど従来の案内業務から誘客に力をそそいでいます。

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 今、着地型観光(地域の魅力的な資源を地域から情報発信する観光)の推進が求められており、地域資源を点検し、生活・文化を核に、食を組み合わせるなどこれまでにないプログラムづくりを進め、地域へ誘客する努力が求められています。

 商工会議所、商工会等と連携し、新しいグルメの開発や着地型メニューの開発などの取組を行い、訪れた観光客が「本物。鹿児島県」の魅力に触れる機会を増やし、地場産業の活性化等に力を注いでいます。様々な取組が相乗効果をもたらし、持続できる地域創りが可能となります。

 県の2014年の農業産出額は、4,054億円で北海道、千葉県、茨城県に次いで第4位となっており、鹿児島の経済を支えている基幹産業です。

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 一方、観光は多くの分野と関連があり、地域の総合産業として捉える必要があります。農業のみならず、漁業、商工業、歴史、生活・文化等を観光資源として捉え、ストーリー性を加えて商品化することで、異業種、異分野間で経済の循環が持続できる地域となります。

 イベントは他地域と連携する等継続できることで地域ブランドとして育っていき、民間の活力、人材の育成等が継続の力となります。

 安定的市場である教育旅行やスポーツキャンプの誘致も重要です。知覧や鹿屋での平和学習、桜島や口永良部島新岳噴火等への「危機管理への対応」、鹿児島市内の歴史探訪、垂水漁協での漁業体験、屋久島の環境学習、内之浦、種子島の科学学習等が差別化になります。

 農家・漁家民宿については、県下全域での受入が可能になり約1,000軒となっており、コンプライアンスの徹底と「簡易宿所営業」の許可取得を推進することが欠かせません。農家民泊と既存の宿泊施設は、新しい需要開拓という視点に立ち、「競争」と「協調」の姿勢が、全体的な入込客増大に結びつきます。

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 国内外のプロチームのキャンプ・合宿や、知名度の高い競技・選手のキャンプを誘致すると、経済効果も大きくなります。県内ではキャンプできるチーム数が限られており、プロサッカーチーム誘致には、天然の冬芝のグランド整備が欠かせません。

 2019年にはインターハイ、2020年には国体が開催されることから、大会に照準を合わせてグランド整備が待たれます。大隅地域にトップアスリート専用の練習場が開設されることが決定し、宿泊施設の整備や鹿屋体育大学等との連携が求められています。

 ところで訪日外国人旅行者が急増しています。2014年の本県への訪日外国人旅 行者は、26万9,110人で25.3%増加しています。国別宿泊者数は、台湾、韓国、香港、中国の順で、台湾からの訪日者数が全体の39%を占めています。

 しかし、鹿児島県の宿泊者全体における外国人の割合は3.5%であり、福岡県6.4%、長崎県5.8%、大分県6.1%、熊本県5.9%と比較すると極端に低くなっています。東アジアから九州への入込観光客は、海外からの交通アクセスが充実している北部九州がメインであり、鹿児島へのシャワー効果がおよんでいません。

 博多からの所要時間は最短でわずか1時間17分ですので、やはり、移動コストの軽減化が求められています。また、WiFiや外国語標記の整備、免税店の充実や外国人の雇用等、訪日外国人旅行者を温かく安心して迎える態勢づくりも必要です。特に、自国を出発前に鹿児島のブランド力をいかに伝えられるかが課題です。

 クルーズ船のさらなる誘致促進も必要です。県内各港には2013年には69隻、2014年は54隻、今年は73隻(国内船含む)のクルーズ船が寄港予定で、さらに増える見込みです。一度に多くの観光客が訪れることから、経済効果も大きくなります。入国審査の時間短縮の働きかけや中心市街地までのバスの運行が欠かせません。

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 最近、各県がイベントや国際会議などの催し物(MICE)の誘致に力を入れています。今年の10月には「第30回国民文化祭・かごしま2015」が開催されることから、多くの参加者が県内各地域に足を運ぶこととなります。

 先月福岡で開催された「AKB48選抜総選挙」では、福岡市内を含め周辺のホテルが2日間満員となり、数億円の経済効果をもたらしたと言われています。MICEの誘致には、通訳施設を備えた大型会議場が必要で、また、音楽・演劇などが鑑賞できるホール等を併設した施設が若者の誘客には欠かせません。

 個人旅行が主流となり、FIT(宿や乗り物を個人で手配する旅行)が増加しています。市中の案内表示、アクセスの同一化、クレジットカード取扱店拡大、Wi-Fiの整備、多言語表示等改善すべき多くの課題があります。

 また、ユニバーサルツーリズムの先進地へと態勢を整える必要があります。障がい者の旅行には、必ず同行者があり、観光施設ではこれらの層を増やすことが、来場者増となります。旅の感動に「バリア」はありません。また、高齢化社会を迎えて、バリアフリーの受入拡大を図るべく施設の改善をすすめなければなりません。ユニバーサルツーリズムの先進地を目指し、人材育成、研修教育の機会を増やすことが重要です。

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 大学と地域とのコラボレーションも重要なキーワードとなります。各自治体は、若者が減少し商品開発や情報発信が遅れがちになります。都会に住む大学生の新鮮な発想で、地域の宣伝者としての役割が求められています。


 地域は大学との連携を深めることで、地域資源を活用した商品開発や販路拡大が可能となります。年間講義のカリキュラムに、地域に滞在しての勉強や住民との交流、商品づくりを組み入れることで、双方のメリットが享受できます。

 素晴らしい日本の伝統文化を国内外の人にPRするのが、観光の役割の一つです。観光が持続できる産業となるには、人材教育の徹底と観光関連産業の雇用をきちんと確保することです。観光地は、そこに住む人が地域の文化をしっかりと守り、観光客にとっても居心地の良い場所でなければなりません。鹿児島が真の意味で、観光立県になるためには、若者が観光に興味を持ち、雇用の維持・拡大が図られることです。

 日本の国内旅行は成熟し、従来の団体旅行やエージェント依存だけでは、地域は大きな発展は期待できません。ものづくり、産業遺産、伝統工芸、食、祭り、MICE、グリーンツーリズム、ブルーツーリズム等地域資源を活用し、地域総力戦で取り組むことが誘客につながり経済効果をもたらします。

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 「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」が世界文化遺産に登録され、鹿児島の3つの構成資産が含まれています。構成資産のストーリーを語ることが、薩摩の先見性や、日本の近代化に果たした役割の重要性を国内外に示すことになります。

 最後に、「域内の定住人口減少」を「域外からの交流人口増大」で補う方策の一つとして、観光による交流人口の拡大が、「地域経済の活性化」に及ぼす効果が大となることを期待してやみません。

No.368 「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の 世界文化遺産登録を寿ぐ~各県と連携し「顕著な普遍的価値」を活かす取組を~

2015年7月6日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光

 ドイツのボンで世界遺産委員会が開催され、「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の、世界文化遺産への登録が決定しました。

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 8県11市の全23の資産が対象ですが、鹿児島市内にある旧集成館『反射炉跡、旧鹿児島紡績所技師館(異人館)、旧集成館機械工場(現・尚古集成館本館)』と、関吉の疏水溝、寺山炭窯跡の3つの資産が含まれています。


 世界遺産の登録までの主な取組経緯について簡単に説明します。平成17年7月に鹿児島県主催で「九州近代化産業遺産シンポジウム」が開催され、「かごしま宣言」を取りまとめました。平成18年6月九州知事会議における政策連合項目として、「九州近代化産業の保存・活用」が決定し、関係県での取組へと発展していきました。

 平成20年9月文化庁において世界遺産暫定登録一覧表への追加記載が決定し、同年10月に、九州・山口の関係6県11市により鹿児島県知事を会長とする世界遺産登録推進協議会を設置しました。(その後8県11市体制となります。)

 その後、様々な推進会議や有識者を招いてのシンポジウムも開催されました。平成26年1月には推薦書(正式版)をユネスコに提出することが閣議で了承され、平成27年5月4日に、イコモスによる「記載」勧告が出されて、今回の正式登録に至ったものです。 鹿児島県は当初から事務局を担当する等、中心的な役割を果たしてきました。関係者に心からの敬意を表したいと思います。

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 世界遺産は、1972年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づいて世界遺産リストに登録された、遺跡、景観、自然等、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ物件のことで、移動が不可能な不動産やそれに準ずるものが対象となっています。

 幕末の薩摩藩は、1840年のアヘン戦争で香港がイギリスの植民地となったことをきっかけに、欧米列強のアジア進出に危機感を抱いていました。第11代薩摩藩主島津斉彬は産業や軍備の近代化が急務と考え、殖産興業と富国強兵を唱え、集成館事業を推進しました。

 集成館事業は、製鉄、ガラス、陶器、繊維、大砲、造船、蒸気機関、化学工場等幅広い分野に渡って取り組み、当時としては東洋一の工場群を形成していました。これらの研究、生産施設群は、1850年代初頭から1860年代という極めて短い期間に整備構築されました。集成館事業は、我が国の産業革命の先がけであり、その後に続く日本近代化の礎となりました。

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 寺山の炭窯で焼かれた火力の強い白炭や、関吉の疎水溝から引かれた水力が燃料と動力源となり、磯地域の工場群の稼働を可能としたストーリーを語ることで、今回の世界文化遺産登録の全体像が見えてくるのではないでしょうか。


 日本国内には、14件の文化遺産と4件の自然遺産の合計18件の世界遺産が登録されており、今度の「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」は、19番目となります。

 鹿児島県は、自然遺産と文化遺産の2つの世界遺産を持つ唯一の県となり、国内外に認知度の向上が図られ、観光客誘致に大きな弾みがつくものと期待されます。

 今回の世界文化遺産登録の意義や今後の課題について整理したいと思います。鹿児島市内の3箇所の構成資産のうち「寺山炭窯跡」、「関吉の疏水溝」は、市民にもほとんど知られていない場所であり、場所のPRやアクセス等が大きな課題です。施設周辺に駐車場が少ないこともあげられます。初めて訪れる方は、友人の案内やボランティアガイドの同行が必要ではないでしょうか。

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 今回の世界文化遺産登録地は8県11市に及んでおり、明治の我が国における産業革命において関連性があることから、それぞれの県がその魅力をPRすることで世界遺産の価値が高まります。


 その中で鹿児島県としては、集成館事業が我が国の産業革命の先がけとなり、その後に続く日本近代化の礎となった事業であるという登録の意義やストーリーを語ることで、他県の施設を超える価値があることをより一層アピールできるのではないでしょうか。

 世界遺産登録で外国人が増加することが予想されることから、英語表記等の充実が求められます。最寄り駅である鹿児島駅は観光客が乗降する場所となります。屋久島や2017年度に世界自然遺産を目指す奄美へのアクセスを考えると、ウォーターフロント地区の再整備も急がれます。

 ところで、日本にある世界文化遺産は、登録後数年経過すると入場者の伸びが低迷しているのが実情であり、自然遺産に比べてリピーターの確保が厳しい点があります。遺構や建物は一度見ると再び訪れる可能性は低くなります。リピーターを創造するには、他地域との連携や四季折々の姿を見せる工夫が必要です。

 桜の時期や菊の満開の頃の仙巖園から見る桜島の景観や、また、曲水の宴や月見の宴等伝統行事と一緒にPRするなど見せ方や活用に工夫を加え、一時的なブームに終わらせないことです。

 公開されている施設を巡るスタンプラリーを展開するのも認知度を高め、観光客を増やす方策になります。「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」は、広域に廻ることでその価値が理解できます。

仙巌園と桜島.jpg

 今年の秋に開催される「第30回国民文化祭・かごしま2015」には大きな追い風となります。世界文化遺産に登録されたことをインパクトにして、鹿児島への誘客につなげねばなりません。口永良部島の新岳の噴火で落ち込んでいる屋久島への観光客回復にも期待がかかります。

 今年は薩摩藩英国留学生の派遣から150年になります。この事業を発案したのも島津斉彬ですが、彼なくして日本の近代化は語れません。(斉彬は1858年に急死)幕末からわずか50年余りで産業化を達成し、日本の近代化の礎を築いたのは、鹿児島市の3件の遺産が重要な役割を果たしおり、それを推進した彼の先見性や人材育成等の功績を再認識する機会にもしなければなりません。

 人口減少が続き地域創生が問われている時代です。「世界文化遺産」登録は、薩摩が果たした功績を学び、郷土を愛する心を育てる機会にもしなければなりません。皆さんもぜひ3つの構成資産をお訪ねください。

参考:鹿児島の近代化産業遺産...鹿児島県世界文化遺産課
  :かごしま近代化産業遺産パートナーシップ会議...鹿児島市文化遺産登録推進室

プロフィール

奈良迫プロデューサー
鹿児島県
観光プロデューサー
奈良迫 英光
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