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No.409 日本の旅館文化を守ることの大切さ~旅館は厳しい経営環境に立たされている~

2016年4月25日
鹿児島県観光プロデューサー 奈良迫英光



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 高度成長期からバブル期にかけて旅行は団体が主流で、貸切バスに揺られて名所旧跡を巡り、夜は温泉地の旅館に宿泊して宴会を楽しんだ方が多いのではないでしょうか。
 好景気に後押しされて、新しい施設のオープンや増改築が目立ち、宿泊者の増加は地域経済にとって大きな支えとなりました。



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 しかし、その後低成長時代が続き団体旅行も激減し、また国民の生活スタイルが洋風化して個室化が進み、日本の伝統文化を守ってきた日本旅館を利用する人が減少しています。
 現在日本旅館協会(2013年に国際観光旅館連盟と日本観光旅館連盟が合併)に加盟している施設数は、2015年で2991軒です。合併前の2012年には3855軒ありましたが、3年間で864軒も減少しています。
 大きな要因として、国民の旅行スタイルの変化に加え、宿泊者の減少や後継者不足による廃業、他の利用施設への転換、倒産などがあげられます。


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 全国の主要ホテルの2016年の平均客室利用率は、インバウンドが好調なこともあり79.2%の高利用率を確保しています。一方旅館は3名~5名の定員の部屋に、2名もしくは1名入っており、主要旅館の定員稼働率は36.0%であり、厳しい経営を強いられています。旅行形態は団体から個人旅行に変化しており、ホテルやビジネスホテルは、シングル、ツインと分けられそれぞれの料金体系が明確になっていますが、旅館は部屋の構造上、宿泊者数に合わせた料金体系を明確にすることが難しく、適正な料金の収受ができていないのが実情ではないでしょうか。
 旅館経営の厳しさがここにあります。ホテルに比べて人手がいるのは旅館です。それなりの料金を取らないと、なお一層経営は厳しいものとなります。


 また、ここにきて、旅館経営が厳しくなっている要因として、1995年に策定・施工された「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が、大型施設の維持管理に大きな負担を強いていることです。2013年に二度目の改正が行われ、不特定多数の人が利用する建物のうち大規模なものについては耐震診断を行い報告することを義務付け、その結果が公表されることになりました。


 耐震診断が義務付けられるホテル・旅館は、1981年5月31日以前に新築工事に着手した建物で、階数3以上かつ床面積5,000平方メートル以上で、防災拠点建築物や避難路沿線建築物として指定された施設が対象です。


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 診断結果を報告することを義務づけていますが、耐震改修については努力義務とされています。診断の結果は行政がホームページで公表し、改修工事をした施設には日本建築防災協会が適合マークを交付することとなっています。
 修学旅行の受入に当たっては、学校からの入札の仕様書に「適合マーク取得の施設」と条件が加えられると、選定に有利に働くことから大きな武器ともなります。


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 一方では、適合マークのある施設が少ないことは、修学旅行を誘致する際地域全体での誘客が制限されることになり、地域への影響は大です。
 このたびの、熊本、大分両県で発生した大地震で、宿泊施設も大きな被害を受けました。耐震改修への義務化が強化されるのではと懸念されます。公的支援や一定期間の猶予等政治的決断が求められます。


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 旅館は夕方のチェクインから翌朝の出発まで、安全管理が求められます。また、夕食、寝具の準備、部屋の夜回り、朝食の準備などを考慮すると、一定の従業員の確保は不可欠です。しかし宿泊者は季節変動があり、オフ時期を考えると常用雇用の人員にも限度があるのも事実です。従業員が少ない中での営業力確保も大きな課題です。
 労働環境も夜が遅くて朝も早く、人が休んでいる間に仕事があることから、若者が集まりにくい状況もあります。待遇改善も大きな課題です。


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 消費者の皆様も旅館の現状を理解して、日本の伝統文化を守るべく、適正な価格維持にご理解をお願いしたいと思います。
 特にエージェントの皆様には価格設定にご配慮いただき、ウインウインの関係を構築していただきたいと願っています。旅館の応援者になることが自らの企業を維持発展させることになるのではないでしょうか。


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 外国人観光客が急増しており、その受け入れ態勢の充実には旅館文化も欠かせません。日本旅館は、湯茶の接待、大浴場、浴衣、料理によって違う皿、部屋に飾られる花、清潔な布団など日本独特の文化を提供しています。外国人にとっては一度にさまざまな日本文化に触れることができることから、和室旅館に宿泊することを好みます。
 大都市圏に集中している外国人を鹿児島に呼ぶためには、鹿児島ならではの体験メニューや食、おもてなしの心、温泉等旅館の素晴らしさを提供したいものです。


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 昔の文人墨客たちは、日本各地を旅行しながら旅館に滞在し、多くの作品を発表しました。尾崎紅葉、島崎藤村、夏目漱石、若山牧水、川端康成、横光利一、太宰治、林芙美子、与謝野鉄幹、井上靖、有吉佐和子らです。


 文豪志賀直哉は兵庫県にある城崎温泉にある「三木屋」という旅館を定宿としてこよなく愛し、そこで名作『城の崎にて』を生み出しました。
施設は木造3階建ての建物と300坪の庭園があり、古風な雰囲気の中にも風格を感じさせる創業260有余年の老舗旅館です。


 その三木屋という旅館を舞台に、今も変わらない城崎温泉の外湯めぐりの様子も描かれているのが次の有名な小説です。旅館の雰囲気と城崎温泉の情緒が絡み合い懐かしい光景が浮かんできます。日本の原風景には、旅館が似合います。



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 「城崎では彼は三木屋というのに宿った。俥で見て来た町のいかにも温泉場らしい情緒が彼を楽しませた。高瀬川のような浅い流れが町のまん中を貫いている。その両側に細い千本格子のはまった、2階3階の湯宿が軒を並べ、ながめはむしろ曲輪の趣に近かった。
 また、温泉場としては珍しく清潔な感じも彼を喜ばした。一の湯というあたりから細い道をはいって行くと、桑木細工、麦藁細工、出石焼き、そういう店が続いた。ことに麦藁を開いてはった細工物が明るい電燈の下に美しく見えた。
 宿へ着くと彼はまず湯だった。すぐ前の御所の湯というのに行く。大理石で囲った湯槽の中は立って彼の乳まであった。強い湯の香に、彼は気分の和らぐのを覚えた。
 出て、彼はすぐに浴衣が着られなかった。ふいてもふいても汗がからだを伝わって流れた。彼は扇風機の前でしばらく吹かれていた。そばのテーブルに山陰案内という小さな本があったので、彼はそれを見ながら汗のひくのを待った。・・・・・・・・・・・・・・」                     小説『暗夜行路』 志賀直哉著より

*休日が続くため、次回は5月9日に配信します。楽しい連休をお過ごしください。

プロフィール

古木 圭介プロデューサー
鹿児島県
観光プロデューサー
古木 圭介
(平成29年4月より就任)
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